●25日、カナダ・漢和ディフェンスレビューはこのほど、中国が福建省に新たな大型空軍基地を建設したと報じた。台北まで約250キロ、尖閣諸島まで約380キロ、東シナ海の東暁油田まで200キロと戦略的要衝に位置している。
JB Press 2013.12.25(水)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39509
尖閣の次のターゲットは「台湾」:危機意識の薄さがもどかしい
11月23日の中国による東シナ海上空における「防空識別圏」(ADIZ)の設定宣言は、中国による尖閣諸島「強奪」のための新たなアプローチであり、東シナ海上空の「制空権」確保の意欲を露骨に示すものと受け止めることができる。
こうした動きは、わが国にとって到底受け入れることはできない。
わが国の防空識別圏と重複する形での空域の設定は、わが国に対し「ケンカを売ってきた」以外の何物でもないからだ。
同時に、わが国の防空識別圏は第2次大戦後の1945年、GHQが設定したものをそのまま引き継いでおり、中国の設定した防空識別圏が米空軍の沖縄北部訓練区域とも一部重複していることから、戦後の米国によって形成された秩序への挑戦という意味合いもある。
しかし、このような状況が出現することは、本来なら予想されていなければならなかったのだろう。
これを中国の仕掛けた「サプライズ」だとすることは、中国がそのために周到に進めてきた「手はず」を認識できていなかった証左になる。
■尖閣上空へいち早く駆けつけるために空軍基地を建設
防空識別圏を設定することは、実は容易なことではない。
設定したからには、その空域を常に監視し、国籍不明機の接近があれば戦闘機によるスクランブル(緊急発進)をかける。
こうした態勢が整っていなければ、防空識別圏の意味がないばかりか、周辺の国にバカにされるだけだ。
中国は、東シナ海上空に設定した防空識別圏において、十分な早期警戒能力、スクランブル態勢を用意した上で宣言したと考えるべきだろう。
ただし、現在までの時点で報道されたことに照らしてみると、中国は自ら設定した防空識別圏をしっかり管理しているようには見えない。
米軍のB-52爆撃機、海自のP-3C哨戒機など、中国の宣言以後に同空域を飛行した航空機に対するスクランブル実施の形跡が見られないからだ。
現状では、おそらく中国は地上配置の対空レーダーと早期警戒管制機(AWACS)による航空識別を予定していたのだろうが、AWACSが常時運行状態になければ地上の対空レーダーでカバーしうる範囲は限られている。
中国は、米軍のXバンドレーダーや日本の空自が運用している「ガメラ」レーダー(J/FPS-5)のような長距離をカバーする高性能な警戒管制レーダーを持っていないこともあり、せっかく設定した防空識別圏が機能不全の状態にあると考えられる。
このことは、西側の常識に照らせば、中国軍部にとって恥ずべき事態なのかもしれないが、その事実を認めるはずもないから、この恥ずべき事態も顕在化を免れていると言える。
しかし、見栄を張って識別能力を超える防空識別圏を設定したにせよ、戦闘機を緊急発進させるためのインフラ作りは実行してきた。
注目すべきは、レーダーによる探査能力もさることながら、尖閣諸島上空への最短アクセスを狙った空軍基地の建設である。
そこで注目されるのが、中国が建設した福建省水門空軍基地である。
尖閣諸島は、中国大陸からも相当の距離がある。
日本の場合、この空域にスクランブルをかけるのは那覇の航空自衛隊であり、直線距離にして420キロメートルある。
F-15戦闘機でも15分程度かかる距離となる。
この距離は、例えて言えば茨城県の百里基地から日本海側に抜けるまでの距離に匹敵する。
日本海側には石川県小松基地があるから、わざわざ百里基地から戦闘機を飛ばす必要はないわけだが、沖縄を中心に考えれば、那覇から尖閣諸島は「遠い」のである。
しかるに、中国の福建省水門基地は尖閣諸島まで380キロメートルである。
大差ないと言ってしまえばそれまでだが、「どちらが先に上空に達するか」となれば、中国側に利がある。
時間にして言えばわずか数分の違いかもしれないが、軍事的な意味合いは大きい。
中国は、航空機の探知・識別能力の不十分さを認識しつつも、スクランブルの能力を確保した自信によって防空識別圏の設定に踏み切ったのではないのか。
いざとなれば、われわれの方が先に尖閣諸島上空を押さえることができるという判断だ。
そのことを強調して言えば、中国の防空識別圏は、いわば「後付け」であり、尖閣諸島上空の制空権獲得を優先したようにも見える。
それを可能にするために建設されたのが、福建省水門空軍基地なのであろう。
この基地は、すぐそばに防空レーダー施設も建設されており、スクランブルも考慮されてはいるものの、まさに「尖閣上空」へいち早く駆けつけるために建設された基地に見える。
■台湾は脅威を感じていないのか?
ここで問題になるのは、本来であるならば台湾にも至近の地域に、中国が新たに空軍基地を建設したことに対する台湾の警戒心の薄さである。
この基地の建設は2009年に開始された。その前年に台湾では馬英九政権が成立し、台湾海峡両岸の緊張緩和に向けて「三通(通郵、通航、通商)」が解禁され、中台の交流が飛躍的に進展した経緯があったため、福建省水門空軍基地建設は台湾では中国による「新たな軍事的脅威」とは観測されず、尖閣諸島と東シナ海のガス田の防衛のためのものと受け止められていた。
この基地は2012年末には稼働を開始していた。
中国では、台湾への軍事作戦に備え周到な準備がなされてきた。
そのなかで特徴的なのは、台湾から至近の距離にある対岸の福建省に主要な空軍基地を構えてこなかったという事実がある。
もちろん、全くなかったわけではなく、福建省の省都である福州には空軍基地があるが、例えば1990年代前半にロシアから導入したスホイ27戦闘機を中国が最初に配備したのは安徽省蕪湖基地と広東省遂渓基地であった。
蕪湖基地が東シナ海を、遂渓基地は南シナ海をにらむ位置にありながら、その作戦行動半径にはともに台湾を含んでいた。
とはいえ、この2つの基地はともに台湾からは相当な距離があったから、台湾側からその脅威を指摘する声は大きくはなかった。
そうした事実を踏まえ、さらに2008年以後、急速に進展した中台の緊張緩和を考慮すれば、中国が福建省水門に空軍基地を建設したことが、台湾の安全保障を脅かすものではなく、日本と対立する尖閣諸島の領有権に関するものだと台湾側が判断してもおかしくはない。
筆者は以前から、中台の接近がもたらす効果として、中国が軍事力の配置について「自由度を増す」ことを指摘してきた。
本来、台湾に集中すべき軍事力を、他の方面に自在に転換配置することが可能になるからだ。
中台の対立が厳しければ福建省水門に建設された中国空軍の基地は、本来であれば台湾にとって脅威の増大を意味する。
それにもかかわらず、中台の緊張が緩和されたことによって、これは尖閣諸島および東シナ海ガス田防衛のためだとして、台湾にとって脅威でないと見なすことになる。
そうした状況の変化によって操作される台湾の感覚が危惧されるのである。
その意味で言えば、まさに筆者の危惧が現実のものになった感がある。
福建省水門の中国空軍基地は、日本にとって脅威であると同時に、台湾にとっても脅威であることに間違いない。
その感覚を日台で共有できないところにもどかしさを感じる。
これは、中国が東シナ海上空に設定した「防空識別圏」についても言えることだ。
実際、中国の設定した防空識別圏は、台湾のそれとも重複している。
■中国のターゲットは尖閣、台湾
日本と台湾は、もし台湾が現状を絶対に維持するという信念に立つならば、中国に対抗する上でこれほど利害が共通する関係はない。
しかし、経済的に中国に依存せざるを得ない台湾の馬英九政権は、中国への配慮を欠かすわけにはいかない。
中国の防空識別圏設定についても、直後に開かれた台湾の国家安全会議の声明を見ると、「一部が台湾の防空圏とも重複するが軍は平和的かつ適切に処置し、自空域の安全を確保する」といった「逃げの姿勢」が見て取れる。
後に台湾の国防部が中国の防空識別圏設定に対し「遺憾」を表明したが、台湾の危機意識は中国との関係を考えればその程度なのである。
台湾は、中国の防空識別圏の設定を「日本がターゲット」だと決めつけて対応しているとしか思えない。
救いは、中国が台湾に対し、防空識別圏の設定で「結束」を求めたのに対し、これに応えていないことだ。
だが、台湾が意識しなければならないことは、中国が設定する「核心的利益」に優先順位があるとすれば、確実に言えるのは台湾「統一」の方が尖閣諸島「強奪」よりも比べ物にならないほど高いということだ。
台湾は、中国との「関係改善」が進んだことによって、中国の戦略的関心が台湾から尖閣諸島にシフトした、などと考えたら大間違いである。
中国が尖閣諸島を「わが物」にできたとすれば、それは台湾「統一」の最大の阻害要因である「日米同盟」に対する勝利であって、その成果が「台湾の武力統一」ないしは中国の武力に対し台湾が観念して争うことなく「統一」を受け入れることへと繋がることを意識し警戒すべきである。
中国の尖閣諸島をめぐる日本に対する攻勢は、次なるターゲットである「台湾」を視野に入れたものであることを認識しなければならない。
阿部 純一 Junichi Abe
霞山会 理事、研究主幹。1952年埼玉県生まれ。上智大学外国語学部卒、同大学院国際関係論専攻博士前期課程修了。シカゴ大学、北京大学留学を経て、2012年4月から現職。専門は中国軍事・外交、東アジア安全保障。著書に『中国軍の本当の実力』(ビジネス社)『中国と東アジアの安全保障』(明徳出版)など。
』
【資料】
『
レコードチャイナ 配信日時:2012年11月26日 5時8分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=66782
福建省に新たな大型空軍基地を建設=台湾と尖閣諸島をにらむ戦略的要衝―中国
2012年11月25日、香港・中国評論通訊社によると、カナダ・漢和ディフェンスレビューはこのほど、中国が福建省に新たな大型空軍基地を建設したと報じた。
新たに建設されたのは福建・水門空港。衛星写真によると、09年に建設が始まり、11年にはほぼ完成した。
そして12年にはJ-10戦闘機や軍事車両の配備が確認されている。
この基地は台北まで約250キロ、尖閣諸島まで約380キロ、東シナ海の東暁油田まで200キロと戦略的要衝に位置している。
台湾、東シナ海をにらんだ中国の軍事力拡張はこれだけではない。
湖南省、安徽省にも大型の駐機場が建設されたことが確認されている。爆撃機及び空中給油機が配備されたとみられる。
』
●尖閣諸島への距離
『
「中国網日本語版(チャイナネット)」 2013年9月24日
http://japanese.china.org.cn/jp/txt/2013-09/24/content_30114947.htm
下地島への自衛隊配備で中国に対応=日本専門家
日本の軍事・時事コメンテーターの元谷外志雄氏は9月22日、産経新聞社が発行する「夕刊フジ」の公式サイト「ZAKZAK」に文章を寄せ、下地島に航空自衛隊を配備し中国に「対応」するよう日本に呼びかけ、韓国を「仮想敵国」とし防衛の準備を整える必要があると称した。
同記事の内容は下記の通り。
2010年9月の民主党政権下で生じた中日の漁船衝突事件、2012年9月の釣魚島(日本名・尖閣諸島)の「国有化」の茶番が演じられてから、中日両国関係が急激に悪化した。中国国内では大規模な反日デモが実施され、中国の公船は釣魚島および付近海域で常態化巡航を形成した。
このほど中国の無人機が釣魚島付近の空域を巡航しているが、これは紛れも無く日本に対する軍事的圧力だ。
釣魚島は歴史的にも国際法から見ても「日本固有の領土」だ。
日本政府は国家の「国民・領土・主権」が他国から干渉されないよう保証しなければならない。
同問題について、安倍首相は「自国防衛」の態度を貫いており、海上保安庁および自衛隊の予算を拡大しており、非常に賢明な政策決定をしている。
日本の冷戦時代の軍備を中国に対する軍備に切り替え、かつ3000メートルの滑走路を持つ下地島(沖縄県宮古島市)に航空自衛隊を配備するべきだ。
安倍首相は中韓両国との緊張関係を緩和させる必要はない。
日本は東京オリンピックにより、力強い経済力をつけ、世界2位の経済大国の地位を奪還し、中韓両国に対して「戦争の抑止力」を形成する。
同時に領土問題は国家主権に関連することから、一歩も譲歩することはできない。
』
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