●ラッシュ時の道路にはバイクが連なる
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JB Press 2013.12.11(水)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39386
トヨタがベトナムから撤退する日政府の煮え切らない政策にAFTA発効が待ったなし
トヨタ自動車がベトナムから撤退する日が数年以内に来るかもしれない。
決して最重要機密を漏洩しているわけではない。
トヨタの役員クラスが公然とその可能性を示唆し、ベトナム政府に対して繰り返し警鐘を鳴らしている周知の事実だ。
●開発が進むホーチミン市内。中央は中心部にある国営百貨店、サイゴン タックス トレードセンター(写真提供:筆者、以下同)
■2018年にゼロになる関税
ベトナムでは、自動車産業保護のため、ASEAN(東南アジア諸国連合)域内からの完成車の輸入に対しては60%という高関税がかけられている。
分かりやすい例で言えば、仮に1000万円の「レクサス」を輸入すると、車両価格だけで1600万円になる。
これに車両登録税やディーラーの手数料など諸々の諸費用を含めると、ざっくりと2000万円。
つまり、当初の2倍ぐらいの価格になる(ちなみに、2000万円ぐらいの車に乗っているベトナム人はざらにいる。
いったい、彼らがどうやってそんなカネを稼いでいるかは興味深い話だが、それは次回以降に書きたい)。
この完成車への輸入税が、ASEAN自由貿易協定(AFTA)によって、2018年にはゼロになる。
これが、トヨタをはじめ、ベトナムにある自動車メーカーの存亡を左右する。
ベトナムでは、自動車部品の現地生産比率が非常に低い。
現地生産できる部品は、シートやワイヤハーネスなど労働集約的なものが中心で、ほかは輸入に頼らざるを得ない。
部品の現地調達率は、自動車メーカーによって異なるが、20~30%程度だろう。
そうすると、完成車の関税がゼロになった場合、トヨタにとっては、わざわざ部品を輸入してベトナムで割高な完成車を作るよりも、部品を現地で生産できるタイやインドネシアの生産拠点から完成車を輸入する方が安くなる可能性が高い。
■組み立てるだけのスマートフォン
部品の現地調達率の低さ、すわなち「裾野」産業の弱さは、決して自動車だけの話ではない。
例えば、韓国のサムスン電子は、壮大なスマートフォン工場をベトナム国内で稼働させている。
この工場の規模は壮観で、2013年の予想輸出額が約2兆5000億円、
ベトナムの国としての輸出全体に占めるサムスン電子の比率は、低く見積もっても15%以上になる。
しかし、この巨大なスマートフォン工場も、「実は部品はほぼすべて海外からの輸入だ」と、サムスンの関係者が語っている。
つまり、ベトナムは輸入した部品を、低価格な労働力を使って、組み立てるというだけの付加価値しか提供できていない。
■ミャンマーへと移り始める産業
労働集約的な産業の弱点は、賃金が上昇すると、徐々に競争力を失ってしまうことだ。
ベトナムにとっては、経済改革に着手し始めたミャンマーが脅威となる。
ベトナムの平均的な工場労働者の賃金は月200ドル前後。一方、ミャンマーでは、100ドル以下で集まる。
ベトナムには、ユニクロやナイキなどのグローバルな衣料品メーカーの生産工場が多いが、
「既に衣料品の工場は、より低い賃金を目指して、ミャンマーなどへと戦線を移動しつつありますよ」
と日系の繊維関係者は語る。
もちろん、労働力の質の差があるため、すべての労働集約的な産業が一気にミャンマーにシフトことはない。
しかし、労働集約的な産業だけでは、長期的な視点では、国としての競争力は低下することは明白だ。
そうなる前に、資本集約的な部品産業を含む裾野産業を構築していく必要がある。
では、なぜ、ベトナムでは裾野産業が育っていないのか。どうしたら育つのか。
■市場の拡大(城を大きくする)
まず、大前提として、市場を大きくしなければいけない。
裾野産業というのは、一種の城下町。
城が巨大になり、そこに住む侍が増える。
すると、そこには自然と諸国から様々な物売りが集まって、巨大な城下町を形成するようになる。
ベトナムのバイク市場は、ホンダを中心に年間販売台数300万台以上。
部品の現地調達率75%以上に上り、既に巨大なバイク城下町が築かれている(過去、バイクの裾野振興策は迷走を極めたが、結果として、大量の需要がすべてを癒やした)。
一方、ベトナムの自動車産業は、まだ相当に小さい。
2012年の新車販売は9万台弱。タイの15分の1程度にすぎない。
これでは、ベトナムに人は集まってこない。
自動車の需要が少ない最大の原因は、ベトナム政府の一貫性を欠いた政策にある。
政府は、自動車産業を是非育てたいと言う一方で、実際の政策はむしろ需要を抑制してしまっている。
例えば、2012年には、自動車登録料の大幅な引き上げ、ナンバープレート交付手数料の値上げ(10倍)を行った。
その結果、自動車販売台数は、対前年で減少している。
もっとも、ただでさえバイクがイナゴの大群のように走る道路に、車があふれかえっても困る。
家の前の道路が大渋滞で、駐車場から車を道路に出すだけで1時間かかる(そして、一度出たら最後、戻るのには、その数倍かかる)と言われた昔のバンコクのようには、誰もなりたくない。
自動車の需要を喚起しつつ、渋滞をコントロールするような政策がベトナム政府には必要とされる。
■裾野産業向けの優遇措置(楽市楽座)
一方、次に、裾野産業を育成するための優遇措置が重要となる。
これは、一種の楽市楽座のようなものだ。
要は、城下町をさらに大きくするために、商人(今回の場合は、裾野産業の担い手)がドンドン集まるための仕かけがいる。
一番分かりやすいのは、裾野産業向けの税金を安くすることだ。
かつてタイでは、射出成型などの業種に対して、8年間の法人税免除などを採用していた。
一方、ベトナム政府は、こうした優遇措置はなかなか実現できない。
我々(DI)は、現在、ベトナム南部のバリアブンタウ省という省の戦略アドバイザーをやっている。
具体的には、省の産業発展戦略を見直し、日本企業を誘致するための戦略を考えている。
バリアブンタウ省の人民委員会委員長をはじめとする幹部も、我々と議論をすると、二言目には「裾野産業」と言ってくる。
しかし、ベトナムの中央政府は、歳入減少をおそれ、特定産業への優遇税制の適用にはかなり躊躇している。
その結果、裾野育成は何も進まないという状況に陥っている。
■難しいベトナムの立ち位置
ベトナムは、不幸なタイミングでこの裾野産業の育成という課題に直面していると思う。
裾野産業の育成は、全ての新興国にとって共通の課題だ。
タイやインドネシアは、何十年も前からこの課題に取り組んできた。
当時は、AFTAのような自由貿易の仕組みはなかった。
よって、高関税による保護貿易政策により、現地部品サプライヤーの成長を促す時間的な余裕が許された。
今のベトナムには、その余裕はない。
ASEAN域内の関税撤廃が、数年以内に、容赦なくベトナムの製造業を襲ってくる。
ちなみに、ミャンマーという国は、この流れを逆手に取って、差別化を図る余地がある。
東南アジアの最後発プレイヤーであるため、低賃金を武器にした戦い方をしても、後続ランナーがいない。
ほとんどの日本企業は、ミャンマーの隣のバングラデシュの方が賃金が多少安いからといって、バングラデシュには出ていかない。
日本民族にとって、歴史上接点のきわめて薄いインド系文化に対する漠然とした不安感が理由なのだろう。
もし、仮に、本当にトヨタがベトナムから撤退するようなことが起これば、その影響は大きい。
自動車産業という基幹産業の1つに蓄積されてきた技術が失われるだけでなく、国際社会に対するベトナムのイメージ上もマイナス要素が大きい。
今後5年でタイやインドネシアに匹敵する裾野産業を育成することは不可能だ。
ただし、9000万人の人口を盾に、自動車産業発展の青写真をきちんと描いていけば、トヨタをはじめとする自動車メーカーはベトナムの魅力を捨てることはできないだろう。
ベトナム政府には長期的な視点での政策を打ち出すことが求められている。
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ニューズウイイーク 2013年12月10日(火)16時08分
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2013/12/post-3128.php
巨大台風直撃でもフィリピン経済の好調は続く
Typhoon Rebuilding Efforts To Give Philippines An Economic Boost
甚大な被害を受けフィリピンの今年の経済成長率は引き下げらたが、それでも6.8%だ
アンソニー・フェンソム
●復興の足音 中部レイテ島の被災地タクロバンでバスケットボールに興じる子供たち Athit Perawongmetha-Reuters
超大型台風ハイエン(台風30号)に襲われ、まだ復興の道半ばのフィリピン。今後さらに巨大な天災に襲われる可能性があるというが、好調のフィリピン経済は、その衝撃を乗り切れるとみられている。
先月8日に同国中部を直撃したハイエンによる死者は5500人以上。負傷者は2万6000人を超えた。
政府の推定によれば、現在も1700人以上が行方不明のままで、犠牲者の数はさらに増えるとみられる。
それでも経済的損失は推定2億3000万ドル前後で、1900人強の死者を出した昨年12月のボーファ(台風24号)の9億ドルを大幅に下回る見通しだ。
最も甚大な被害を受けたビサヤ諸島は、ココナツやコメ、サトウキビの栽培が主力産業の農業地帯。
オーストラリア・ニュージーランド銀行の調査によれば、フィリピンのGDPに占める割合は2・2%にすぎない(12年時点の数字)。
同行は今年のフィリピン経済の成長率予測を7・1%から6・8%に引き下げたが、来年の予測は逆に6・5%から6・9%に引き上げた。
GDPの4%相当とされる復興事業が本格化する上に、国際援助による下支え効果も見込めるからだ。
さらに国内の他地域からの義援金と、シンガポールや中東諸国などへ出稼ぎに行っているフィリピン人からの送金が被災地の痛みを軽減する役に立つだろう。
海外で働く出稼ぎ労働者の送金は、GDPの10%を占めると推定されている。
フィリピンはもはや「アジアの病人」ではない。
製造業の急成長を背景に、今年前半は7・6%の成長を記録した。
被災地復興も「間違いなく急ピッチで進むはずだ」と、コンサルタントのビル・バーネットは指摘する。
1〜8月にビサヤ諸島を訪れた外国人観光客は300万人以上。
観光と不動産は期待の成長分野だと、バーネットは言う。
だが年間約20の台風が襲来するフィリピンは、今後さらに大きな天災に直面する危険性があると、アナリストは警告する。
ミュンヘン再保険のリポートによると、80年代に500億ドルだった天災関連の年間損失額は過去10年間で2000億ドル近くまで上昇した。
低・中所得国の損害は特に大きかったという。
「ハイエンは、気候変動がさらに極端で過酷な気象現象を生み出すことを浮き彫りにした。
最大の被害者は貧しい人々だ」
と、世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は声明で指摘した。
それでも当面、被災地は台風の経済的損失が思いのほか少ないことに胸をなで下ろすだろう。
[2013年12月10日号掲載]
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