2013年12月17日火曜日

中国除くBRICs諸国、自動車市場の拡大に急ブレーキ:



●11月14日に記録的な交通渋滞となったサンパウロ〔AFPBB News〕


JB Press 2013.12.17(火)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39458

中国除くBRICs諸国、自動車市場の拡大に急ブレーキ
(2013年12月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

大気汚染による死者数、交通事故超える サンパウロ

サンパウロにとって11月14日は歴史的な1日となった。
 国の祝日を翌日に控えた午後6時ごろ、交通渋滞が309キロもの長さに到達したのだ。
 これはブラジルの商都であるこの街の過去最高記録であり、大雑把に言えば、ニューヨークからボストンまで車を数珠つなぎにした状態に相当する。

 ブラジルの道路の混雑は、ここ10年間で自家用車が急増したことの証しだ。
 新興の中間層が所得を増やし、以前よりもローンを利用できるようになったことの現れなのだ。

 しかし、快走を続けてきたブラジル自動車市場は今、「渋滞」に直面している。
 同じBRICsの仲間であるロシアやインド――いずれもかつての成長市場であり、世界の自動車産業にとって重要な利益の源泉――と同様な運命をたどっている格好だ。

 ブラジル、ロシア、およびインドの自動車販売台数は今年、十数年ぶりに前年割れとなりそうだ。
 自動車産業にとって最も重要な成長のエネルギーが絶たれることになる。

■「自動車産業の未来」と謳われたBRICs諸国、3市場が前年割れに

 「グローバルな自動車メーカーの多くはここ5年間、成熟した市場でのプレッシャーを打ち消そうとこの3市場にかなりの投資を行ってきた。
 その意味で(前年割れという)この状況は彼らの望むものではない」。
 コンサルティング会社IHSオートモーティブのシニアアナリスト、イアン・フレッチャー氏はこう語る。

 この3市場がそろって前年割れを経験するのは2001~02年以来のことだ。
 投資銀行ゴールドマン・サックスのチーフエコノミストだったジム・オニール氏が、新興国市場投資の決まり文句になったBRICsという略語をつくり出したちょうどそのころの話だ。

 ボストンコンサルティンググループが2010年1月に公表したリポートには、
 「向こう10年間・・・自動車産業の未来はBRICs諸国にある」
と書かれていた。

 そう予測したのは同社だけではなかった。
 世界の大手自動車メーカーはこの4市場にこぞって進出し、工場や部品供給ネットワーク、販売店網を立ち上げた。

 フォード・モーターは、インドに最初に設けた工場がまだフル稼働していないものの、来年には2番目の工場(総工費10億ドル)を完成させる。
 ルノーと日産自動車はロシアの自動車メーカー、アフトワズに17億5000万ドル投資している。

 しかし、世界の自動車市場の牽引役に躍り出た中国はその勢いのまま快走しているものの、ほかのBRICs諸国はガタガタと異音を発している。
 また、欧州の自動車販売が6年連続の前年割れになりそうなことも考えれば、このタイミングはメーカーにとっては理想的なものではない。

 国際自動車工業会(OICA)によれば、ブラジル、インド、ロシアの昨年の自動車販売台数はいずれも250万台を超えており、それぞれ世界で5番目、6番目、7番目に大きな市場となっている。

 ブラジルではフィアットとゼネラル・モーターズ(GM)、フォルクスワーゲン(VW)がそれぞれ約20%のシェアを握っており、ロシアではルノー・日産連合が30%のシェアを獲得している。

■成長減速、消費者心理の悪化、通貨安の三重苦

 しかし、経済成長の減速と消費者心理の悪化、そして通貨安という3つの要因が重なり、需要は伸び悩んでいる。

 「向こう6カ月間で状況が劇的に変わるとは思えない」。
 インドのムンバイを本拠地とする証券会社インディア・インフォラインの自動車アナリスト、プライェシ・ジェイン氏はそう言ってはばからない。
 「金利は上昇しているし、所得の伸びにもさほど勢いがない。
 おまけに燃料価格も上昇している。
 その意味で、これは完全にマクロの問題だ」

 人口が増加傾向にあり中間層も多いインドはかつて、世界規模で事業を展開する自動車メーカーの垂涎の的だった。
 フォードからGMに至るまで、外国勢は新工場の開設やインフラの整備に数十億ドルをつぎ込んだ。 
 何しろ、自動車を保有する人の数が人口1000人当たりで18人しかいないのだ。

 しかし、堅調な成長を数年間続けたものの、アジア第3位の経済大国であるインドは不景気に直面しており、自動車販売も落ち込んでいる。
 インド自動車工業会(SIAM)の統計によれば、2013年1~11月期の乗用車販売台数は170万台で、前年同期を10%下回っている。

 ブラジルでも、自動車業界の好況期は終わりつつあるのではとの懸念が強まっている。
 大型の自動車購入減税が継続されているにもかかわらず、今年の販売台数は10年ぶりに前年割れとなる恐れがある。
 ブラジル自動車工業会(ANFAVEA)のデータによれば、今年1~11月期の新車登録台数は前年同期実績を0.8%下回っている。

 ブラジルの教育研究機関インスペール(Insper)のレティシア・コスタ氏は、消費主導の経済モデルが息切れしたことが今年の不振の原因だと述べている。
 「ブラジルの所得は現在、ここ数年見られたような伸びを示していない。
 信用残高も、以前のようなペースでは増えていない」

 市場に新たにやって来る消費者が減っているうえに、自動車を購入できる消費者は既に車を買ってしまった、とコスタ氏は指摘する。

■まだ続く恐れがあるブラジル、ロシアの不振

 ブラジルの経済成長率は今年も来年も2%をわずかに上回る程度と予想されていることから、恐らく来年の自動車業界の規模は今年の水準で安定するか、あるいはさらに縮小することになるだろう、というのがコスタ氏の見通しだ。

 1960年代にブラジルに進出したフィアットでは、同国の自動車販売台数が第3四半期に21%減少する一方、中南米における営業利益がほぼ半減し、通年の利益予想を下方修正する原因になった。

 「我々はブラジルで不確実性の時代を生きている。
 これは非常に珍しいことだ。
 過去6~7年からすれば、間違いなく異例だ」。
 フィアットが決算発表を行った後、最高経営責任者(CEO)のセルジオ・マルキオーネ氏は投資家に向かってこう述べた。

 やはり業績不振の欧州自動車メーカーで、欧州大陸以外への事業拡大を図ったプジョーは先週、11億ユーロの評価損計上を発表し、その原因は「ロシアと中南米の自動車市場の悪化と不利な為替レート」だとしていた。

 ロシアのAEB自動車製造業者委員会によると、ロシアでは、コスト上昇と鈍い経済成長が買い控えを招き、今年1~11月期の販売台数が前年同期比6%減となっている。

 2008年の不況にもかかわらず、2000年に90万台だったロシアの自動車販売台数は2012年に270万台に達した。
 こうした市場拡大に引き寄せられ、数十もの外国ブランドがロシアに進出し、「ラーダ」を生産するアフトワズなどの現地メーカーと対抗するようになった。

 「間違いなく、産業全体は以前ほど緩やかなペースとはいえ、なお落ち込んでいる」。
 ロシアの自動車業界団体の代表を務めるヨーグ・シュライバー氏はこう言う。
 「前年比の販売台数のトレンドが平らになるという待望の状況はまだ訪れていない」

■潜在的なモータリゼーションにはなお期待

 IHSのフレッチャー氏は、長期にわたる減退は自動車メーカーにとって心配の種になるものの、
 「これらの地域では今後、まだかなり大規模なモータリゼーションの可能性が見込めることを考えると、これは一時的な躓きに見える」
と考えている。

 だが、こうした市場の工場や販売網、サプライチェーンに既に数十億ドル規模の投資を行った企業にとっての懸念は、もうすぐ手に入ると思っていた見返りが2010年代末まで実現しないかもしれないことだ。

 「何が変わったかと言えば、我々が前もって弾き出した販売数量の想定が、実現という点で計画より遅れたことだ。
 だが、向こう5~6年では可能だと思っている」。
マルキオーネ氏はブラジル市場についてこう語っている。

By Henry Foy in London, Avantika Chilkoti in Mumbai, Samantha Pearson in Sao Paulo and Courtney Weaver in Moscow
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