2013年12月20日金曜日

中国がウクライナに「核の傘」を提供へ:中国・ロシア関係の懸案に

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レコードチャイナ 配信日時:2013年12月20日 18時58分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=80771&type=0

中国がウクライナに「核の傘」を提供へ、
中国・ロシア関係の懸案に


●5日、中国を訪問したウクライナのヤヌコビッチ大統領は習近平国家主席と会談した。写真は中国第1の核兵器研究開発基地であった国営221工場の地下指揮センター、通称「原子城」。

 2013年12月5日、中国を訪問したウクライナのヤヌコビッチ大統領は習近平国家主席と会談。
 中国・ウクライナ友好協力条約を調印しました。
 韓国紙・朝鮮日報日本語版はその条約に
 「中国がウクライナに『核の傘』を提供する条項が含まれている」
と報じています。(文:高口康太)

 まずは5日に発表された
 「中華人民共和国とウクライナのさらなる戦略的パートナー関係深化に関する合同声明」
の該当部分を紹介します。

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 国家の主権、統一、領土、領土の一体性の問題における両国相互の強い支持は戦略的パートナー関係の重要な内容であると両国は協調している。
 両国は互いに相手国がその国情に基づき発展の道を歩むことを強く支持する。
 互いの独立、主権、領土の一体性の擁護、政治・社会の安定の補償、民族経済発展の努力を支持する。

 自国の法律や参加した国際条約に基づいて、自国領土内に相手国の主権、安全保障、領土の一体性を損なうような独立、テロ、原理主義の組織やグループの存在を許してはならず、またその活動を禁止しなければならない。

 ウクライナは一つの中国政策を堅持することを改めて表明。
 中華人民共和国政府が全中国を代表する唯一の合法的政府であり、台湾は中国の欠くことのできない領土であると承認している。
 いかなる形式の「台湾独立」にも反対し、中台関係の平和的発展と中国の平和的統一の大業を支持する。

 中国側はウクライナが一方的に核兵器を放棄し、非核兵器国家として1968年7月1日に調印された核拡散防止条約(NPT)に参加したことを高く評価する。
 中国は国連安保理984号決議と1994年12月4日に中国政府がウクライナに提供した安全保証の声明にのっとり、非核兵器国家のウクライナに対する核兵器の使用と核兵器を使った威嚇をしないことを無条件で約束する。
 またウクライナが核兵器の使用による侵略、あるいはこの種の侵略という脅威にさらされた場合、ウクライナに相応の安全保証を提供する。
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 過去の共同声明では武力による侵略、威嚇をしないという相互の承認があげられているだけなので、核の脅威にさらされた時に安全保証を提供するというのは一歩踏み込んだ内容でしょう。
 ただし核兵器をウクライナに撃ち込まれたら報復で核兵器をぶっぱなすとは約束していないので、「核の傘」とは言えないのではないか、と。

 面白いのがこの共同声明の第二段落、第三段落が中国側からの要求が書かれていることを考えると、第4段落はウクライナ側の要求で入れられた可能性が高そうな点です。
 第二段落、第三段落では一つの中国を認めるだけではなく、独立組織、グループを取り締まるとの文言も含まれています。
 まじめにこの条項に従うと、亡命チベット人や亡命ウイグル人が抗議デモをしたらアウトということになります。
 この踏み込んだ約束のお返しが第四段落ではないでしょうか。

 報道によると、現在のウクライナが抱える最大の苦境は来年償還ラッシュを迎える外債とのこと。反政府デモが話題となっていますが、それもそもそもロシアの援助を求めて親ロシアの姿勢を政権が示したことが背景にあるようです。
 今回のヤヌコビッチ大統領訪中も資金繰りが最大の目的。
 ちなみに中国は80億ドルもの投資を約束したといいますが、国債購入といったもっとも効く処方箋については話題に上がっていないようです。
 リーマンショック当時もそうでしたが、中国は投資には熱心ですが、デフォルトでご破算になりかねない国債購入についてはかなりシビアです。

 というわけで安全保障問題は主要な議題ではなかったとはいえ、中国の「核の傘」っぽいものが与える影響は軽視できません。
 ウクライナに核の脅威を与える国といえば、当面ロシアぐらいしか思いつかないわけで、しかもウクライナ国内に反ロシア勢力が相当数存在することを考えると、この条項はロシアを逆なでしかねない条項と言えるでしょう。

 そうしたリスクを軽視したのか、あるいはそれでも独立派勢力取り締まりの約束が欲しかったのか、などなど中国の狙いが注目されます。

◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)
翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。



「WEDGE Infinity」 2013年12月19日(Thu) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3445?page=1

ロシアの圧力でEU加盟見送り:大規模化するウクライナのデモ

■■ロシアかEUか ウクライナの東西選択(前篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3445?page=1


●ウクライナ反政府デモの様子。事態収束の目処立たず…
(写真:AP/アフロ)

 12月17日、ロシアのプーチン大統領とウクライナのヤヌコービッチ大統領の会談がモスクワで行われた。
 会談後、プーチンはウクライナへの150億ドル(約1兆5400億円)の金融支援と、ロシアからウクライナに輸出する天然ガス価格を約3分の1引き下げることを発表した。

 ウクライナ情勢は11月末から緊迫していた。
 それは、前回の拙稿で簡単に触れた、欧州連合(EU)とロシアの間で揺れるジレンマが原因である。
 これまでの経緯は後述するが、ウクライナは現段階ではEU加盟を見送り、上記のようにロシアからの援助にこぎつけた。

■旧ソ連諸国のそれぞれの東西選択

 11月28~29日に、旧ソ連構成国であったアルメニア、アゼルバイジャン、ベラルーシ、グルジア、モルドヴァ、ウクライナの6カ国とEUとの経済、政治、外交面で両者の関係を強化する方策を協議する「東方パートナーシップ」*首脳会合がリトアニアの首都ビリニュスで開催された。
 そして、EU加盟の前段となる連合協定(AA)の締結がこの会合の肝であった。
 だが、旧ソ連諸国に対する影響力の維持を図るため、ロシアはそれらの諸国がAAに締結しないよう、かなり前から政治的圧力や禁輸措置などの経済制裁、エネルギー価格問題などを利用し、必死の妨害を試みてきた。

 しかし、グルジアとモルドヴァはロシアからの妨害行為にも負けず、AAへの仮署名(仮署名はAA締結の前段階であり、締結は来年以降となる)に踏み切った(ただし、モルドヴァでは親露派の抗議デモが発生した)。

 そして、ロシアと密接な関係を維持してきたベラルーシ、石油・天然ガスからの収入で経済的に潤いロシアと欧米の間でバランス外交をとりながら独立独行的な政策を維持してきたアゼルバイジャンは、かなり早い時点でAAに署名しないことを表明していた。

 アルメニアは国内で少なからず抗議行動などが起きたが、ロシアからの脅迫でAAへの署名を見送らざるを得ず、9月にロシアが主導する関税同盟への参加を表明した。

■大規模化するデモ・「ユーロマイダン」

 そして、ウクライナも後述のように苦しい選択となったが、11月21日にAA署名に向けた準備プロセスの一時停止が発表されたことに端を発し、首都キエフなどにおいて抗議デモ・集会が継続して行われていた。

 また、これを受け、EUのファンロンパイ大統領と欧州委員会のバローゾ委員長は11月25日に共同声明を発表し、締結の阻止のために圧力をかけてきたロシアを批判した上で、ウクライナにEUは締結の提案をまだ取り下げていないとした上で、「短期的な考えで、関係強化による長期的な利益を台無しにすべきでない」と訴え、ウクライナを引き留めたが、結局、ウクライナはAAに署名をしなかった。

*EUの東方拡大によって近隣国となった旧ソ連6カ国(ウクライナ、ベラルーシ、アルメニア、グルジア、モルドヴァ、アゼルバイジャン)との関係を強化する枠組みとして、2009年に創設された。EUは財政支援を支柱に、各国に経済改革や民主化を促し、自由貿易協定(FTA)の締結や査証免除などで連携を深めようとしている。

 これを受け、ウクライナでのAA署名棚上げに抗議する反政府デモは大規模に拡大していった。
 独立広場に集うデモ、「ユーロマイダン」はどんどん熱を帯び、特に週末には極めて多くの人数、最大で30万人とも35万人ともいわれる参加者が集結し、抗議デモは現在(12月15日)もなお、続いている。
 2004年に親米政権(次の選挙で敗北)を生んだ「オレンジ革命」以来、最大の国民のうねりが起きている。
 そして、今回の運動では、「オレンジ革命」より民族主義が色濃いのも特徴となっている。

■調印を見送った背景、「ロシア」と「ティモシェンコ」

 それでは、親欧米・反ロシア的機構といわれてきた地域機構GUAM(グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドヴァという加盟国の頭文字をとっている。
 一時期ウズベキスタンも加盟)をグルジアと共に主導し、2008年にはNATO加盟も現実的だったウクライナが何故、今回のAA調印を見送ったのだろうか。
 その背景には、国際的事情と国内事情の双方がある。

 まず、一番大きかったのはやはりロシアからの圧力である。
 ロシアからウクライナの名産品の禁輸措置や天然ガス輸入ガス価格問題での圧力を受けていたが、経済難で困窮していたウクライナにとって、その打撃は極めて大きいものだった。
 また、ウクライナはIMFからの資金援助を得られなくなったこともあり、頼れるのはロシアだけだったのである。

 また、ヤヌコービッチ大統領にとって、1年3カ月後に大統領選挙を控え、「オレンジ革命」の立役者で政敵であるユリヤ・ティモシェンコ元首相の排除は極めて重要な問題であった。
 実際、親EUのデモ隊は、「われわれは欧州人だ」「ユリア(ティモシェンコ)に自由を」を連呼しており、ティモシェンコ元首相の影響力が無視できないほどであるのは明らかだ。

ヤヌコービッチは、就任後、ティモシェンコ元首相を投獄し、彼女が病気のためにドイツでの治療を懇願してもそれを認めて来なかった。
 欧米諸国はティモシェンコ投獄をかねてより、政治弾圧として批判し、再三に渡り釈放を要求してきたが、ヤヌコービッチはそれを拒否してきた。
 しかも、今回のAA締結に際しては、EU側が締結条件として、ティモシェンコの病気治療のための出国を求めていたのだ。
 だが、11月21日にウクライナ議会は、その出国を拒否する決定を出した。
 ティモシェンコにとって、出国もウクライナのEU接近も実現しないのは二重の打撃であったため、彼女は11月25日に無期限のハンストに入ったのだった(12月6日までにハンストは撤回)。

 また、ヤヌコービッチの支持者は、もう1人の野党指導者で世界ボクシング評議会(WBC)ヘビー級王者のビタリ・クリチコ氏から大統領選挙への立候補資格をはく奪する法律も可決していた。
 (なお、今回の抗議行動では、ティモシェンコの不在もあり、クリチコが飛躍的に存在感を増している)

 このような事情も、ヤヌコービッチがロシアを選んだ大きな理由である。
 何故なら政敵を非民主的な手段で排除したライバルなき選挙を公正と認め、資金援助をしてくれるパートナーは旧ソ連の民主化を求めないロシア以外にないからだ。
 実際、プーチン大統領は、11月18日にもウクライナの天然ガスの代金滞納問題で妥協を見せた。

■ロシア、EU双方にとって重要なウクライナ

 旧ソ連圏への影響力保持を主張するロシアにとって、ウクライナの重要性はひときわ高い。
 ウクライナはロシア、ベラルーシと並び、ソ連を実質的に率いてきたスラブ系民族の国であり、キエフ公国の歴史もロシア人にとっては重要な心の拠り所だ。
 そんなウクライナを失っては、プーチン大統領が推進するユーラシア連合が成立するわけもないのだ。

 他方、EUにとっても、「東方パートナーシップ」対象国の6カ国の中で、ウクライナは経済や人口が最大規模であるだけでなく、歴史的にも欧州と関係が深い(ウクライナ西部はポーランドに支配されていた歴史がある)ウクライナとのAA締結は最重要課題であった。
 自由貿易協定(FTA)が計画の支柱ではあるが、民主主義や法の支配といった、ヨーロッパスタンダードの価値観を広めること、そして欧州の安全保障のためにも、資すると思われていたからだ。

 そのため、EUはウクライナの選択に失望を表明すると共に、ウクライナに圧力をかけたロシアを再三にわたり批判してきた。
 もちろん、それに対し、ロシアは無関係だと反発し、加えて、EUがウクライナを見捨てたとしてEUを批判している。

 だが、ヤヌコービッチ大統領は「われわれは欧州との統合の道をさらに進む」と表明し、ロシアからの支援を確保しようとしつつ、EUやウクライナの有権者からもロシア一辺倒と思われないためにも、引き続き、EUカードを使い続けようとしている。

 また、ヤヌコービッチ大統領は、中国にも救済を求めた。
 12月3~6日、反政権デモが続く中、予定通り訪中し、戦略的パートナーシップ構築を含む約20の文書に調印した。
 ウクライナは、対中関係強化を経済的苦境打開の一助として重視している。
 5日には中国から80億ドル規模の経済支援も取り付けた。
 中国からの経済支援は、経済難にあえぎ、かつロシアへの「貸し」を増やしたくないウクライナにとってとても重要であるが、短期的な救済としか考えられておらず、場当たり的な対応にしかならないのも事実だ。
 なお、野党「ウダル」のクリチコ党首は、ウクライナでは現在「政権交代」を図っている最中だとして、中国指導部に大統領と会談しないよう求める声明を発表していた。

■政権側も平和的解決を模索

 抗議行動は、デモのみならず、市庁舎や労働組合会館の一部占拠、内閣府や中央銀行の封鎖、欧州を目指した人間の鎖、ロック演奏、レーニン像破壊など様々な形で行なわれてきた。

 政権側は、反政府集会を強制排除したり、抵抗が激しい者を一時拘束したり、野党事務所を捜索したりするなど、強い姿勢で対抗し、負傷者も多数出ている。
 そして、そのような政権側の対応がまたデモ隊側の怒りを刺激するのだ。
 デモ隊は一部でブルドーザーを使い、治安部隊のバリケードを破壊するなど、デモ隊も過激化していった。
 政権側はこの動きを「クーデター」とさえ呼んでいる。

 だが、負傷者などの被害が増える中、欧米諸国からのウクライナ政府への批判が高まり、政権側も平和的解決を模索するようになった。
 そのため、12月2日には、最高会議の委員会が野党提出の内閣不信任案を本会議で審議することを決定したものの、3日の採決では与党系が過半数を占める議会で賛成票は半数に届かず否決された。
 ただ、与党・地域党議員2人が離党し、大統領府長官も辞表を提出し大統領に受理を拒否されるなど、与党側も動揺していった。
 また、ヤヌコービッチは2日にバローゾ欧州委員長に電話し、AAに関して議論するため代表団を欧州委に送る考えも伝えた。

 キエフの裁判所は12月1日から来年1月7日まで、市中心部での大規模集会を禁止する決定を下したが、野党側はこれを無視するのみならず、「広場を明け渡さないようデモを3交代で24時間続ける」と決定し、逆に治安部隊が広場から撤退する状況になった。

■混乱する与野党

 そこで、ヤヌコービッチも大きな妥協に踏み切り、12月10日には、クラフチューク氏ら3人の歴代大統領と会談し、与野党の主要勢力が収拾策を話し合う「円卓会議」を11日にも開催する意向を明らかにし、野党側に対しては対話に応じるよう求めた。
 この際、ヤヌコービッチは、円卓会議で妥協が成立すれば、AAに来年3月までに署名できるとも述べた。
 同日、ヤヌコービッチはEUのアシュトン外交安全保障上級代表とも会談し、平和的解決に向けて取り組む意向を表明したという。

 そして11日にはヤヌコービッチが自ら野党を含む全勢力に対話を呼びかけた。
 だが、野党第1党「連合野党・祖国」を率いるティモシェンコは「ギャングとの円卓会議はありえない」として反発し、アザロフ首相とヤヌコービッチ大統領の両首脳の辞任を求めるばかりだったが、一方で同党のヤツェニュク幹部は12日、参加には「広場に集う市民からの『委任』を得る必要がある」と述べ、対話に応じる可能性に含みを持たせるなど、同政党内にも考えのブレがみられるようになっていた。
 また、野党も一枚岩ではない。党内ではデモ制圧の責任者、ザハルチェンコ内相の辞任を対話に応じる条件とする声も浮上しているが、別の有力野党「自由」のチャフニボク党首は首相辞任などこれまでの「全ての要求を満たす必要がある」と強調していた。

 それでも、結局、13日に野党勢力が「対話路線」に転換し、大統領と円卓会議を提唱したクラフチューク氏ら歴代大統領3人、野党第1党「連合野党・祖国」幹部のヤツェニュク氏、野党第2党「ウダル」のクリチコ党首、野党「自由」のチャフニボク党首らが参加する円卓会議が実現し、大統領は野党側の態度硬化の原因となった治安部隊による野党支持者らの強制排除について「過激な行為に憤慨している」と事実上の謝罪も行なった。
 ただ、政権側は、野党側が求めるアザロフ内閣の総辞職および大統領選挙と議会選挙の前倒し実施を拒否したため、野党は独立広場の占拠を当面続ける方針を示した。

 他方、ヤヌコービッチは14日、デモ激化のきっかけとなった治安部隊による学生デモに対する強制排除の責任を問い、ポポフ・キエフ市長ら治安対策に当たった幹部2人を解任し、対話ムードの醸成に努めたが、14日、15日にも大規模デモが開かれた。

 このように、デモは大規模化しているが、ウクライナの一般市民はロシアと欧州どちらに向いているのだろうか。
 後篇で検証してみたい。

■■ロシアかEUか ウクライナの東西選択(後篇)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3451

 前篇では、ロシア・EU間で揺れ動くウクライナについて、その背景を政治・外交的観点から探った。
 それでは、ウクライナ人は欧州とロシアのどちらに向いているのだろうか。
 興味深い社会調査結果がある。2013年11月9~20日に、キエフ国際社会学研究所がウクライナ全地域の18歳以上の国民2011名に対してアンケートを行なった結果が図1である。


●図1 ウクライナ国民の東西の志向性(社会調査結果)
(出所)http://www.kiis.com.ua/?lang=ukr&cat=reports&id=204&page=2

図1を観ると、歴史的背景もあり、ウクライナの西部・中部は親EU、南部・東部は親ロシアで、また若い人は親EU、高年齢層は親ロシアの傾向が強いことが分かる。

 しかし、この世論も短い間に変化しているようだ。
 ウクライナの民間世論調査機関「リサーチ・アンド・ブランディング・グループ」は12月10日、同国がEUとロシアが主導する関税同盟のどちらの経済圏に統合されるべきかを問う世論調査結果を発表した。
 調査は12月4~9日にウクライナ全土の2079人を対象に実施された。

 その結果だが、46%がEUと回答し、関税同盟と回答した36%を10ポイント上回ったのだ。 
ただし、ウクライナ西部では81%が親EU、東部では61%が関税同盟と回答するなど地域差は依然として顕著だ。
 ともあれ、これまではウクライナ全体では、親EU派と親ロシア派が拮抗しているとみられてきたが、EUへの親近感が増している現状が浮き彫りになった。

■嫌悪感示すも、態度を軟化させるプーチン 

 ロシアのプーチン大統領はウクライナで起きていることに対し、嫌悪感を隠さない。
 彼は、「現在キエフで起きていることは、ウクライナの反政府派が主張する革命ではなく、ポグロム(暴力的な破壊)だ」と述べただけでなく、ウクライナ情勢の混乱は「外部から入念に仕組まれた」と述べ、2015年の次期大統領選挙で親ロシアのヤヌコービッチ政権を倒すために欧米が関与しているとの見方を示した。欧米陰謀説を利用してロシア国内や、旧ソ連圏の親ロシア勢力の求心力を強める思惑とみられる。

 ロシアはウクライナがロシアとEUを天秤にかける中、確実にウクライナを引き留める策を模索している。
 プーチン大統領は、6日にロシアのソチでヤヌコービッチ大統領と会談し、ウクライナの情勢への対処方法を伝授したと言われる。

 だが、EUとロシアを天秤にかけるウクライナ政権、そして親EU派が増えているウクライナ国民の状況をロシアも理解しており、ロシアのウリュカエフ経済発展相は12月9日の記者会見で、「ウクライナは関税同盟への加盟に強い関心を表明していない」と語るとともに、ウクライナの関税同盟加盟に関する合意は何もなく、加盟への道のりは長く厳しく、骨の折れるものとなると認めている。

 プーチンも12月12日に、連邦議会に対する年次報告演説を行い、ウクライナに対し、ロシアが主導する関税同盟への参加交渉を呼び掛け、EUよりロシアとの協調を優先するよう求めた。
 その折、大統領は、ウクライナがこれまで関税同盟に部分的に参加する意向を示していたことに言及し、「実務レベルで交渉を継続する用意がある」と語った。
 だが、ロシアは従来、ウクライナにAAか関税同盟かの二者択一を迫っていたが、それよりは態度を柔軟化させているように見え、ウクライナの野党に配慮したものと思われる。

 また、これまでロシアはウクライナが関税同盟に加入しなければウクライナが求めるガス価格の引き下げは不可能だとしてきたが、前篇の冒頭でも触れたように、17日のヤヌコービッチ大統領との会談で、ガス価格を約3分の1引き下げることを発表した。
 150億ドル(約1兆5400億円)の金融支援も、100ドル億ドル強の早急な融資がなければ財政破綻するといわれているウクライナにとってはまさに救世主だ。

 今回の会談では関税同盟への署名はなかったが、野党側は「ウクライナの資産をロシアに“質入れ”した」「ロシアの影響力が益々強まる」として合意内容に強く反発し、デモの一層の過激化が予想される。
 米国も、ウクライナの街頭の人々の懸念に応えるものではないとして、ロシアを批判すると共に、ヤヌーコビッチ大統領に野党との対話を促すなど、波紋は大きい。

■「EUへのドアは開いている」

 他方、欧米も本問題を真摯に受け止めている。

 EUやEU首脳陣はウクライナに対し、「EUへのドアは開いている」と強調し、統合路線への回帰を求めている。
 EUの有力者が度々ウクライナを訪問したり、電話会談をしたりして野党指導者や首脳陣と会談してきた。
 そして、EU側は条件が整えばEUはAAの用意がまだあるとの考えを再三示してきた。

 しかし、12月15日になると、EUのフューレ欧州委員(拡大・欧州近隣国政策担当)がウクライナの対応を批判して「AAの取り組みを保留する」とツイッターで報告した。
 ヤヌーコビッチおよび側近たちは、再三にわたり、「ウクライナは近くAAに署名する」と述べてきたが、フューレ氏は、政権側の発言と実際の行動はかけ離れていて、署名の実現性は低いとして、このような行動にでたのだ。
 これはヤヌコービッチ政権への圧力だと見られる。

 また、米国は反抗議行動に対し、警察機動隊を使用したことに強く反発した。
 そして、米国防省は、ウクライナの政権側から、12月11日にデモ隊に対し軍隊を使わない政策を取っている、という確約を受けたという。

■やはりロシアと手を切るのは難しいか

 本稿脱稿(12月15日)時点で、野党側は現在も抗議行動を継続しており、問題の解決は見えない状況だ。

 EU側が事実上支援している一方、米国は「直ちに大統領選挙と議会選挙を実施すべきだとする野党の要求は法的に疑問」だとしてデモ隊に対しても嫌悪感を示している。
 確かに、選挙で選ばれた指導者を抗議デモや他の超憲法的手段によって崩壊させれば、民主主義に反する政治混乱に陥る可能性も高いのだ。
 そしてそれは民主主義の基準を重視する欧米の方針にも反するはずである。

 他方、混乱が長期化すれば、今回のデモも欧米の陰謀だと主張するロシアのウクライナへの干渉をより強めることになるだろう。

 本稿では割愛せざるを得ないが、ウクライナは財閥の影響がとても強い国であり、ウクライナの将来の政治像を考える上では、財閥の影響力を加味することが不可欠だ。

 このようにウクライナの今後を占うのは極めて難しい。
 しかし、短期的にはウクライナはロシアと手を切ることは難しそうだ。
 状況の平和的解決にはまず対話が必要であるが、その上で、次回の選挙が民主的に行われるよう、国際社会が見守る必要があるだろう。


廣瀬陽子(ひろせ・ようこ) 慶應義塾大学総合政策学部准教授
1972年東京生まれ。専門は国際政治、コーカサスを中心とした旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主な著作に『旧ソ連地域と紛争――石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『強権と不安の超大国・ロシア――旧ソ連諸国から見た「光と影」』(光文社新書)、『コーカサス――国際関係の十字路』(集英社新書)【2009年アジア太平洋賞特別賞受賞】など。







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