2013年12月6日金曜日

「オバマの裏切り」:B52飛行のムダ、「オバマ政権があと3年も続くのは最悪の事態」

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●中国が設定した東シナ海防空識別圏


JB Press 2013.12.05(木)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39341

中国防空識別圏にオバマ政権が“お約束”の妥協
B52を飛ばした米軍の行動が元の木阿弥に

 中国が日本をはじめとする関係諸国との事前協議なしに防空識別圏を設定したことに対して日本の多くのマスコミは大騒ぎをした。

 そして、アメリカがB52爆撃機に中国防空識別圏内を飛行させると
 「アメリカが日本の肩を持った」
 「日米同盟が強化された」
 「日米連携して中国を沈黙させた」
といった類のお決まりの日本に都合が良い解釈が垂れ流された。

 しかしこうしたマスコミの報道は、中国による防空識別圏設定事件の本質を伝えていないように思える。

■中国防空識別圏が世界で反発される原因

 そもそも防空識別圏という概念はアメリカで誕生し、現在アメリカは4つの防空識別圏(アメリカ本土防空識別圏、アラスカ防空識別圏、ハワイ防空識別圏、グアム防空識別圏)を設定している。


●アメリカとカナダが設定した「本土」防空識別圏(シェードの空域)


●ハワイ防空識別圏(外側の囲みと内側の囲みの間の空域)

 アメリカ領空と違って、防空識別圏はアメリカの排他的主権が及ぶことはないが、アメリカ領空に接近する民間航空機は防空識別圏内でアメリカ航空管制当局が“身元の確認”を実施し、もし識別できない航空機が防空識別圏をアメリカ領空に向かって飛行している場合には、空軍機が緊急発進して適宜誘導を実施することになっている。


●防空識別圏での不審機対処パターン(資料:アメリカ連邦航空局)

 これらの4つの防空識別圏に加えて首都ワシントンD.C.周辺上空にも防空識別圏が設定されている。
 ワシントンD.C.周辺空域に設定されている防空識別圏はアメリカ領土上空の領空内での特別な防空識別圏であり、ホワイトハウスを中心とする首都機能が集中しているワシントンD.C.上空の飛行制限空域の周辺空域に設定されている。


●ワシントンD.C.防空識別圏(青シェードの部分、赤シェードの部分は飛行制限空域)

 したがってワシントンD.C.防空識別圏は、アメリカの排他的主権が完全に及んでいる
 アメリカ領空内に設定された首都機能防衛のための飛行制限管理空域であって、アメリカ自身が設定している上記の4つの防空識別圏や、日本をはじめ数カ国が設定・公表している防空識別圏とは根本的に異なる概念である。

 このたび中国が設定した防空識別圏は、中国政府の通告によると、アメリカ政府がアメリカ自身の領空内に設置した特別なワシントンD.C.防空識別圏に類似している。

 要するに、ワシントンD.C.防空識別圏以外の一般的な防空識別圏は自国の排他的主権が及ばない空域に対して設定されているため、当然ながら実際の運用でもその防空識別圏に関しては排他的主権を発動できないのが原則となっている。

 しかし中国の設定した防空識別圏は、
 中国の排他的主権が及ばない領空の外側に設定されているにもかかわらず、
 ワシントンD.C.防空識別圏のように、中国の排他的主権が行使される空域となってしまっている。
 このように概念を混用して設定していることが、アメリカをはじめ少なからぬ国際社会の反発を買っている原因なのである。

 しかし、こと日本のマスコミの論調からは、「中国が日本の防空識別圏とオーバーラップさせて防空識別圏を設定した」、あるいは「尖閣上空域も中国が勝手に防空識別圏に編入した」という防空識別圏の範囲が問題であるという批判が主流であり、相変わらず事態の本質を伝えていないと言うことができる。

■防空識別圏を領空概念と混同させようとする中国

 防空識別圏は、領海や領空そして排他的経済水域などと異なり、国際法や国際条約によって範囲が設定された国際的な約束事ではない。

 「領海」は主権国領土の海岸線(基線)から12海里、領海の外側12海里の海域が「接続水域」、そして接続水域の外側で基線から200海里の海域が「排他的接続水域」、というのは国連海洋法条約に明記された国際的ルールとされている。
 また、主権国家の領土と領海の上空は「領空」とされて主権国の排他的主権が及ぶことも国際的ルールとして確立されている。

 しかしながら、防空識別圏というのは国際法的に一般化された空域ではなく、“創始者”であるアメリカをはじめとする数カ国が自国の都合によってある意味では“勝手”に範囲を設定して運用している概念である(現在、アメリカ、日本、台湾、韓国、インド、パキスタン、イギリス、カナダ、ノルウェイそして中国が防空識別圏を公表している)。

 ただし、防空識別圏と領空は明確に異なる概念であることだけは国際的ルールとして認識されている。
 そのため、防空識別圏を設定した国家の排他的主権が防空識別圏に及ぶことは国際ルールから見て許されないことになる。
 そのようなことがまかり通れば、それぞれの国家が“勝手”に自国の領空を拡大させてしまうことになってしまう。

 ところが中国当局の通達によると、
 「このたび中国が設定した防空識別圏内の空域は中国が管轄し、その空域内を飛行するすべての航空機は中国の指令に服さなければならず、
 中国当局の指令に従わない航空機に対しては防衛のために中国軍が緊急措置を講ずることもある」
とされている。

 もちろん、中国領空内を飛行する航空機に対してこれらのような制約を加えることは、自国の領空には排他的主権が及ぶ以上、なんら問題ではないし、中国に限らずいかなる国家といえどもそのような権利を有している。
 しかし、自国領空外の防空識別圏空域においても上記のような要求を主張するということは、国際法的には中国領土と領海の上空に限定されている領空を「防空識別圏」という名称を使って拡大したことになる。

 上記のように、中国が自国の領空に向かってくる航空機の“身元確認”をするための空域である防空識別圏の線引きをどこに設定しようが、そのような識別空域の存在を公表しようが秘密にしておこうが、それこそ中国当局の“勝手”である。しかし、防空識別圏の設定を恣意的にできるということと、識別作業の運用のために諸外国の航空機に対して中国の排他的主権を中国領空外の防空識別圏内で押し付けることとは全く次元の異なる話である。

 アメリカやオーストラリアそれにヨーロッパ諸国までが中国による防空識別圏設定に対して批判的立場に立っているのは、なにも中国の防空識別圏に尖閣諸島が含まれているからでも、日本や韓国の防空識別圏とオーバーラップしているからでもなく、
 あたかも防空識別圏を領空のごとく中国の排他的主権が及ぶ空域であるかのように運用しようとしている
からである。

■オバマ政権の“お決まり”の対中妥協

 中国が、南シナ海と東シナ海にフィリピンや日本といったアメリカの“軍事的保護国”をターゲットにした防空識別圏を設定して、アメリカ政府に揺さぶりをかけるであろう、といった予測はアメリカ軍事関係者の間では想定内の出来事であった。
 しかしながら、東シナ海方面すなわち日本をターゲットにした防空識別圏が先行したことに対しては「予想がずれた」と言っている人々が少なくない。

 軍事関係者そして米軍当局にとっては想定外の出来事ではなかったため、米軍としては当然の行動として、丸腰で飛行速度も遅く図体も巨大な、世界中のいかなる軍隊でもいとも容易く捕捉追跡可能な旧式爆撃機B-52に中国防空識別圏を飛行させて、アメリカ軍の対中態度を(中国と日本に対して)公表したわけである。

 もちろんアメリカ軍としては中国当局の防空識別圏設定は日本に対して向けられており米軍機は無関係であり、中国軍がB-52に対して「何もしない」ことは百も承知の上でのデモンストレーションである。
 しかしながら、同盟国、それも“兄貴分”としてのアメリカ軍としては、見え見えとはいえ“対中圧力”らしき行動を実行したというわけなのである。

 ところが、B-52の示威飛行から時を経ずして、“妥協の人”オバマ大統領率いるアメリカ政府はアメリカ航空会社に対して中国防空識別圏での中国当局の要請に応じてフライトプランを中国当局に提出するように働きかけた。
 その結果、ユナイテッド航空、アメリカン航空、デルタ航空は中国当局に対してフライトプランを提出した。

 筆者周辺の少なからぬアメリカ軍関係者は
 「アメリカ民間航空会社が中国にフライトプランを提出した時点で、米軍がB-52を飛ばして実施した米軍としての態度表明は全く水泡に帰した」
と憤慨している。

 もっとも
 「オバマ政権には、中国と決定的に対決してまで、日本をはじめとする同盟国の肩を持ってアメリカの極東地域での国益を維持しようなどというタカ派的発想など端から存在しない。
 そうである以上、いつも通りの対中妥協の繰り返しで、仕方がないことではある
と半ば諦めているのである。

 そして締めくくりは、
 「オバマ政権があと3年も続くのは、我々にとって(筆者を含めて話し合いに加わった対中封じ込め派にとって)最悪の事態だ
という。

■アメリカに頼りきっているのは危険

 アメリカ軍が中国共産党政府による「防空識別圏」の名を借りた“運用上の領空拡大”に対抗するためにB-52を飛行させても、軍を統制し国防外交政策を取り仕切るオバマ政権が中国に妥協してしまったため、米軍の行動は全くの徒労に終わった。

 「アメリカ民間航空会社にフライトプランを中国に提出させたことをもって、アメリカが中国の防空識別圏を認めたわけではない」
とオバマ政権は強弁している。
 だが、中国側の要請に従った事実は事実であり、米軍関係者が憤慨しているように
 オバマ政権は中国当局に妥協してしまった
のである。

 アメリカ軍とオバマ政権の対中態度は乖離しており、いくらアメリカ軍が中国に対して断固とした立場、すなわち日米安保条約に基づいて日本を防衛する義務を履行しようとする立場を堅持しようとしても、肝心要のオバマ政権が中国政府に対して妥協的行動を取り続け、そして日本自身が中国の軍事的圧力を相当程度撥ね返すことができるだけの自主防衛能力を保持しない限り、
最後に笑うのは中国である。
 たとえ日米同盟などが存在しても、日本としてはそのことを明確に認識しておかねばならない。

北村 淳 Jun Kitamura
戦争平和社会学者。東京生まれ。東京学芸大学教育学部卒業。警視庁公安部勤務後、平成元年に北米に渡る。ハワイ大学ならびにブリティッシュ・コロンビア大学で助手・講師等を務め、戦争発生メカニズムの研究によってブリティッシュ・コロンビア大学でPh.D.(政治社会学博士)取得。専攻は戦争&平和社会学・海軍戦略論。米シンクタンクで海軍アドバイザー等を務める。現在サン・ディエゴ在住。著書に『アメリカ海兵隊のドクトリン』(芙蓉書房)、『米軍の見た自衛隊の実力』(宝島社)、『写真で見るトモダチ作戦』(並木書房)、『海兵隊とオスプレイ』(並木書房)、『尖閣を守れない自衛隊』(宝島社)等がある。


 オバマの裏切りによって日本の選択肢は狭められてきている。
 これまでは少なくとも3つあった。
①.中国に屈服する。
②.アメリカと連携して中国を牽制する。
③.日本独自で中国と対抗する
 だが、オバマの裏切りによって、②はなくなった。
 オバマが中国寄りになったいま、日本に残された選択肢は実に単純化してしまった。
 つまり、
①.中国に屈服する
②.最悪、中国と一戦交える心づもりで対峙する。 
 これ以外にはなくなってしまった。
 腹をくくるには分かりやすいが、アメリカが日本をここまで追い込んでくるとは思わなかった。
 おそらく日本の為政者は中国に屈服するという選択肢はとらないだろう。
 となれば、
もしかしたら独自で一戦交えることもありえる
という決断で今後の行動を決めていくことになるだろう。
 選択肢が「表か裏か?」しかないならどちらかを決めるしかあるまい。

 ちなみに「中国に屈服する」という選択肢はあるのだろか。
 どう考えても、これを選択する明快な理由は出てこないのがいまの日本である。
 もしあるとしたら、
 「暴力はいけません、暴力を使うくらいなら中国の奴隷になりましょう」
となってしまう。
 こういう「日本のおばさま的」発想有事の時はほとんど無力になる。
 それはいくらなんでも日本民族の矜持が許さないからである。
 それに、天皇制という少々複雑な古典制度を社会的に維持している。
 天皇を奴隷化するというのは、どうにも民族的思想が許さないだろう。
 なら、古い言葉でいえば「玉砕」覚悟へ邁進していくことになる。
 まあ冷静に考えてみても中国からのミサイル核攻撃でもないかぎり、日本が一戦交えて負けるということはありえないだろう。
 戦争のキャリアの違いとは、喧嘩ズレしているかどうかの違いでもある。
 大言壮語しても、いざケンカとなったとき、勝利をきめるのは度胸で、それはケンカの場を数多く踏んだかどうかで決まる。
 ケンカの前はいくらでも、吠えることができる。
 でも、その場にたったら、場馴れした奴の度胸にはかなわない。
 ビビッてしまう。
 戦争も同じであろう。
 戦争の経験を数多く持ち、敗けを知っているヤツのほうが武器をたくさん並べられるヤツよりも強いということである。
 いざそのとき戦争におびえることのいないやつが、最後は勝つ、ということになる。
 しかし、やることになるのはいいが、そのためにやっておくことは、
 日本はいま、できる限り余力をもって勝利を確実にするための方策に邁進する
のが、なすべきことになる。
 残念だが、こういう判断をする時期にきてしまっている、ということなのかもしれない。
 「オバマの裏切り」によって。

 ロシアの軍事専門家は尖閣で軍事トラブルが発生したとき、日本は数十機の航空機を失うという。
 対する中国はその2倍ないし3倍の150機になるだろうという。
 もし、日本が数十機を失い、中国が100機失ったとき、どうなるだろうか。
 どちらに厭戦気分が噴出するだろうか。
 大本営発表のようないい加減はデータではなく、情報が発達した現代では戦況がダイレクトに国民の耳に届くことになる。
 数十機を失った日本に湧き出る戦争終了を欲求するの世論と、その倍を失った中国人民の社会的不満はどういう結論を導きだすかである。
 おそらく日本は戦争なんだから已む得まい、あの東日本津波の福島の苦悩を考えろということにもなる。
 日本が航空機数十を失って厭戦気分になることはおそらくあるまい。
 たかだか数十機の戦闘機で日本をどうこうすることにはならない。
 その程度は覚悟の戦争だろう、ということになるだろう。
  
 中国はどうだろう。
 極度な言論統制をかけ、中国版KGBが勇躍活動することになるだろう。
 しかし、グローバル世界では情報の侵入を抑えることはできない。
 特に、外資が幅を利かせている都市部では戦果の情報は筒抜けになる。
 となると、どうなるか。
 日本の倍になる航空機を失って、日本の軍事力を過剰に見積もることにもなりかねない。
 それより、大言壮語していた共産党に対する失望で共産党を賞味期限切れの政党とみなし、解放軍を軍事予算を汚職した無能な軍隊ということにもなりかねない。
 そのいきつくところは政権の崩壊になるかもしれない。
 日本では数十機の戦闘機を失って政治機能を失うことは絶対にありえない。
 だが、中国では社会不満が常時満ちているため、それをきっかけで、一気に騒乱に進んでしまうこともありえる。
 そうなったら、日中紛争どころではなくなってくる。
 だから中国は戦争を嫌がる。
 そのために日本を抑えこもうとする。
 中国は外交を知らない。
 抑えこむというのは、反発を招くということになる。
 抑えこもうとすればするほど、日本はそれを呼び水にして戦力増強に走ることになる。
 尖閣反日デモでそれを中国は経験しているはずである。
 その経験を生かせないないのが綱渡りしている共産党という政体の弱さでもある。
 つまり、弱さを見せたら民衆に飽きられ、期限切れを通告されるというウイークポイントを持っている。

 「オバマの裏切り」によって、日本は独自でやっていくしかないという名目上の窮地に立たされている。
 だからこそ、これを利用しない手はない。
 為政者なら通常そう考える。
 今後、日本の政治家たちはどんな動きをしていくのだろうか。
 歴史的に見て価値のあるステージが展開されることは間違いない。
 その一つ一つに未来の学者たちが評点をつけるような動きが展開されていくということである。 
 





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