●中国中央電視台(CCTV)のプロデューサー・王青雷氏がマイクロブログでの発言を理由に退職させられた後、SNSで「サヨナラ、CCTV――この時代にちょっとばかりの“本当の言葉”を残しておく」との文章を発表、反響を呼んでいます。写真はCCTV社屋。
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朝日新聞デジタル 2013年12月3日23時59分
http://www.asahi.com/articles/TKY201312030464.html
中国国営TVに「真実報道を」 元プロデューサーが批判
【北京=倉重奈苗】中国国営中央テレビの報道番組プロデューサー・王青雷氏の
「中央テレビとの決別――この時代に残すわずかばかりの『真実』」
と題した文章が、中国版ツイッターの「微博(ウェイポー)」で転載され、話題を呼んでいる。
王氏の文章は、11月27日に10年勤めた同テレビを退職したことから始まり、
「この10年で私はねじ曲げられ、絶え間ない苦痛の中で懸命にもがいていた」
と告白。
同テレビの報道番組が政府寄りの内容になっていると指摘しつつ、
「国家と国民に勇気を持った真実の声を伝えず、大衆の尊敬と信頼を得られなかった」、
「中国には真実が必要だ。
これは人民の希望であり権利だ」
などと悔しさをつづった。
香港紙によると、王氏は2011年7月に浙江省温州市で起きた高速鉄道事故で、番組で鉄道省(当時)を批判し、停職処分になった。
国営メディア中枢の当事者が中国の報道姿勢を批判する文章を発表するのは異例。
王氏の文章は削除されたが、ネット上で次々に転載されている。
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レコードチャイナ 配信日時:2013年12月9日 14時2分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=80193&type=0
「サヨナラ、CCTV」政府批判で解雇された中国テレビ局プロデューサーの“綱渡り”
中国中央電視台(CCTV)のプロデューサー・王青雷(ワン・チンレイ)氏がマイクロブログでの発言を理由に退職させられた後、SNSで
「サヨナラ、CCTV――この時代にちょっとばかりの“本当の言葉”を残しておく」
との文章を発表、反響を呼んでいます。
日本メディアも報じていますが、一番詳しく報じているのが時事通信の記事「国営テレビに決別宣言=報道番組プロデューサー、『信頼失った』―中国」です。
「中央テレビを含めた伝統メディアが敗北した原因は、国家と国民に対して勇気を持った真実の声を伝えず、民衆の尊敬と信頼を得られなかったからだ」
と述べ、真実を伝えなかった悔いをにじませた。
国営メディア内部にいた当事者が、報道体制そのものを批判する文章を発表するのは異例。
権力の厳しい言論統制の中で、真実を伝えられない記者や編集者の苦しみが高まっている表れでもある。
原文はすでに削除されていますが、削除されたマイクロブログのつぶやきを保存する自由微博で見ることができます。
長文ですが、かなり面白いので中国語が読める人はどうぞ。
■「世界一視聴者が多い番組」で一個人の不祥事を大々的に報じる
それでですね、短くまとめられた日本語の報道だけを見ていると、「報道の自由を重視する異端児がCCTVの方針を批判して追放された」的な印象を受けるわけですが、全文を読むともうちょっと事情は複雑かつ面白いのです。
●まず第一に王さんがやめさせられた理由について。
今夏、中国政府はネット取り締まりキャンペーンを大々的に展開しました。
その一つが「大V批判」。
大Vとはフォロワー10万人以上の認証アカウントの意味、転じて「ネットの著名人」という意味になりますが、そうした「大V」にも社会的責任がある、デマを流す「大V」を取り締まるキャンペーンが行われ、ネット有名人が次々と逮捕されます。
福島香織さんの記事「中国の大がかりな『デマ退治』 ネットユーザーはデマを流した方に味方する」がこのあたりの事情を詳しく解説しています。
その中でも王さんが特に問題視したのは大Vの一人にしてエンジェル投資家、中国系米国人の薛蛮子の事件。
売春していた、乱交パーティーを開いていたとして「聚衆淫乱罪」で逮捕されます。
政府批判の言論人潰しが目的だったのは明らかですが、売春という別件で逮捕したわけです。
言論そのものをターゲットに米国人を逮捕するのはまずかったということかもしれませんが。
CCTVはこの逮捕劇を全力で支援。
“世界一視聴者が多いテレビ番組”こと、夜7時のニュース番組・新聞聯播で3分間にわたり売春の詳細を報道。
また囚人服を着た薛蛮子の反省の言葉を放映しています。
反体制派の言論人潰しに法的根拠はあるのか、一個人の売春事件を新聞聯播で大々的に取り上げる必要はあったのか。
これがSNSで王さんが繰り広げたCCTV批判です。
結局、この批判が解雇のきっかけとなったようですが、どの発言が問題だったのか、最後まで明かされることはなかったと王さんは語ります。
■体制内であがくこと
今春話題になった事件に南方週末事件がありました。
年始号の社説が強制的に書き換えられたとして記者たちが反発、世論の支持を得たという事件です。
これも王さんの問題とよく似たところがあります。
南方週末の記者たちは日頃から厳しい検閲の中で仕事をしていましたが、そのことに不満を持ちつつも受け入れていたことは確かです。
ところが検閲当局との合意が得られた後、その合意をひっくりかえして社説が書き換えられたことに記者たちは爆発したのです。
中国が独裁体制であることの現状を認めつつも、独裁体制にもルールがあるはずだという訴えです。
王さんはCCTVの体制、検閲に不満を抱え、退職した後にその思いを明らかにしているわけですが、しかし番組作りにあたっては「綱渡り」するかのように放映できるテーマを探し、上司と折衝を繰り返したことを明かしています。
またこうした体制下で番組作りをする心境を次のように吐露しています。
「こうした体制にあって、屈折した人間こそ逆に健康なのではないかと思う。
自分の無力を痛感しながらも進むべき方向と変わらぬ目標とを持っているからだ。
逆に屈折していない人間こそ病的だ。
体制への依存に麻痺し、その環境を受け入れてしまうからだ。
それどころかこうした環境に順応し、出世していく。
どんな体制がいいか、それをはっきりと言える人はいないかもしれない。
だがどんな体制が悪いのかは分かる。
みんなが感じているとおり、今の体制は最悪だ。」
「今の体制が悪いのなら出て行けばいいと言う人もいるかもしれない。
確かにそうだ。
だけど私も、そして私以外の多くの人もCCTVに来たのは金や地位のためではない。
自分のジャーナリズムの理想を実現するためだ。」
またCCTV以外の官製メディアの記者たちの「がんばり」も取り上げています。
人民日報、中央人民ラジオ局、中国青年報などはCCTV同様、主流メディアとして「党の喉と舌」となるよう求められているのに、それでも頑張って声をあげていると讃えます。
特に中国青年報は上述した大Vの事件でも法的根拠があるのか疑義の声をあげたと絶賛しています。
■妥協した人が好きです
誤解を恐れずに言えば、私は妥協した人が好きです。
後世評価されるのは妥協しなかった人でしょう。
体制内に身を置くことを拒んだ人。
果ては投獄されたり、亡命したりすることを余儀なくされます。
妥協した人は後世批判されることになるでしょう。
いや、今においても体制の一味として厳しい目を向けられていることは間違いありません。
王さんをはじめ官製メディアに身を置く「妥協した人」たちは、報じるべきニュースを握りつぶし、プロパガンダに加担した経験をお持ちでしょうし、その責はゼロではありません。
とはいえ、妥協しながらも屈折しながらも、自分が好きになれない体制の中に身を置きつつ、その体制を変えられないかと考えている人たちのことが好きですし、その存在を知っておくべきではないかと思います。
◆筆者プロフィール:高口康太(たかぐち・こうた)
翻訳家、ライター。豊富な中国経験を活かし、海外の視点ではなく中国の論理を理解した上でその問題点を浮き上がらせることに定評がある。独自の切り口で中国と新興国を読むニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。
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