2013年12月2日月曜日

米国に挑戦状を突きつけた中国:中国外交は世界のルール追従者から、ルール制定者に

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●29日、中国国防部は、中国空軍の航空機がスクランブル発進し、東シナ海で防空識別圏に進入した自衛隊の航空機10機を確認したと発表した。資料写真。


JB Press 2013.12.02(月)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39325

米国に挑戦状を突きつけた中国
(2013年11月29日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

米中両首脳、気候変動に協力して取り組むことで一致

 一見すると、中国政府による東シナ海の防空圏設定は、尖閣諸島(中国名:釣魚島)の主権を巡る日本との往年の対立の段階的なエスカレートを意味する。

 それより憂慮すべき、真実味のある解釈は、
 中国政府が西太平洋で米国と対峙することを決意したという見方だ。
 東アジアは一段と危険な場所に見えてきた。

 今年、米カリフォルニア州で米中首脳会談が開かれた時、中国の習近平国家主席は米国のバラク・オバマ大統領に向かって、太平洋には両大国を受け入れる十分な広さがあると言った。

 推論されるのは、米国と中国は利権を分かち合うべきだということだった。
 だが、もう1つ、暗にこの発言に込められていた意味は、米国が太平洋地域随一の大国であり続けるという現状を受け入れないということだった。

■自国の「分け前」をつかみ取りにかかる中国

 オバマ大統領は首脳会談で、この問題をかわした。
 習主席は今、中国が自国の分け前をつかみ取るべき時だと判断したように見える。

 第2次世界大戦後に米国の支配下に置かれた時期を除き、尖閣諸島は19世紀後半から日本の施政下にある。
 中国は1970年代前半に再び権利を主張したが、数十年間、主張を通すための行動は取らなかった。

 2008年の北京オリンピック以降、中国政府は強引なアプローチを採用し、論争となっている領土周辺の海域と空域にたびたび侵入するようになった。
 こうした行為は、尖閣諸島周辺は日米安保条約の適用対象だとする米国の警告を招いた。

 この米国のコミットメントが今、試されている。
 中国政府が問いかけている疑問は、
 既存の秩序を守るためにオバマ大統領は一体どこまでやるか、
ということのようだ。
 中国の戦略目標は、米国を自国の沿岸から遠ざけ、東シナ海と南シナ海に宗主権を確立することだ。
 中東での戦争で疲弊した米国に、一握りの無人の岩礁を守るためにアジアでの紛争のリスクを取る政治的意思があるだろうか? 

 中国の行動のタイミングが、オバマ政権が特に大きな困難を抱えた時期と重なったのは、恐らく偶然ではない。

 中国が新たに設定した「防空識別圏(ADIZ)」にB52爆撃機を2機送り込んだ米国政府の決断――米国は飛行を通告することを求めた中国政府の要請を無視することで「防御的緊急措置」に遭うリスクを冒した――は、米国が問題の本質を理解していることを示唆している。

 チャック・ヘーゲル米国防長官は中国の動きを「地域の現状を変えて不安定をもたらす企て」と呼んだ。
 他の米国政府高官はそれほど外交的ではなかった。
 だが、中国政府は長期戦を展開している。
 東アジアにおける決定的に重要な疑問は、
 果たして米国には、地域覇権を目指す中国の持続的な取り組みに抵抗するだけの持久力があるかどうか、だ。

■中国の防空識別圏は「日本がターゲット」、中国国営紙

 中国の新たな飛行規則がもたらす直接的な影響は、尖閣諸島を巡って日本との武力衝突が起きるという、既に大きなリスクを一段と高めることだ。

 中国の防空圏は長い歴史がある日本のADIZと重複している。
 双方で誤算が生じるリスクは決して無視できるものではない。

 日本には安倍晋三首相という国家主義的な指導者がおり、首相は、自国より強大な力を持つ隣国に屈したり、日本政府は政治的緊張を和らげるために一定の役割を果たすべきだという米国からの内々の警告に過剰に影響されたりしない決意を固めている。

 安倍首相は臆面もない修正主義者であり、日本の歴史から不快な部分を拭い去る危険な癖を持つ。
 また、防衛的な軍事力以上のものを得るために日本の憲法を改正する言い訳を探している。
 偶発的であれ意図的であれ、
 尖閣諸島周辺で中国との衝突が起きれば、まさに憲法改正を正当化する理由ができる。

■米国のジレンマ

 その結果、オバマ大統領は紛れもなく困った立場に立たされている。
 米国は中国に対して、尖閣問題では米国は日本の味方であることをはっきりさせなければならないが、それと同時に、地域の緊張を高めることを安倍首相に促してしまう事態は避けたいと思っている。
 中国の隣国は1つ残らず、米国政府がこの2つの目的の間で、正確にどこで折り合いをつけるかを注視している。

 米国にとって、対日関係よりもはるかに多くのことがかかっている。
 尖閣諸島を巡る日中間の対立は、中国と近隣諸国が抱える多くの領有権争いの1つだ。
 中国の新たな防空圏は日本の領有権だけでなく、韓国の防空圏とも重複している。

 フィリピンは、南シナ海に浮かぶ島嶼を巡る中国との対立で十分な支援を与えてくれなかったとして、米国政府に不満を抱いている。
 ベトナムも自国領海について中国との紛争を抱えている。

 意識的か否かは別として、
 中国政府は今、尖閣諸島上空の支配権を東アジアに対する米国の安全保障のコミットメントを試すリトマステストに変えた。
 米国政府が中国の飛行制限を受け入れれば、米国はすべてのアジア諸国に対し、
 中国の拡張主義に対抗して現状を守るうえで米国を当てにできない
というメッセージを送ることになる。

 だが、問題の空域を絶えず警備することで東アジアに常駐する大国としての決意を示せば、中国政府との新たな摩擦の種を受け入れることになる。
 筆者の推測では、中東での米国の権威失墜を招いたと批判されているオバマ大統領としては、尖閣問題で引き下がるわけにはいかないだろう。

■往々にして繰り返される歴史の過ち

 中国の政策立案者は、何にも増して歴史を熱心に学ぶ。
 19世紀末のドイツの台頭は長年、中国の外交政策のエリートが学ぶカリキュラムの大きなテーマだった。
 こうした政府高官は中国を訪れる人々に対し、中国は、隣国を結束させて、ドイツの強国の地位への台頭を阻止する勢力にしてしまったカイザーの誤算は繰り返さないと説明する。

 過去に対するこうした注意力は今、力を行使する中国の決意の二の次になっているようだ。
 歴史の過ちは往々にして繰り返されるのだ。

By Philip Stephens
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レコードチャイナ 配信日時:2013年12月2日 12時26分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=79908&type=0

 2013年11月30日、シンガポール華字紙・聯合早報は記事
 「狙いがはっきり見えない防空識別圏」
を掲載した。

 中国の東シナ海防空識別圏策定が波紋を呼んでいる。
 中国側は
 「圏内を飛行する際にはフライトプランを提出し、中国側の指示に従わなければならない。
 さもなくば武力で対応する」
との内容を一方的に通達した。
 これに日米は反発、中国の通達には応じず、連絡なしで軍用機を東シナ海防空識別圏で飛行させた。

 この動きに中国は何も対応していない。
 ある分析では中国政府は検討不足で航空識別圏を設定しメンツを失う結果になったと解説している。
 しかし一方で中国は細心の準備を払い、今も狙い通りに進んでいるとの見方もある。

 中国自身が表明しているとおり、防空識別圏は領空の拡大ではない。
 とはいえ
 中国のルールは他国の防空識別圏よりも厳格なもので、いわば同空域における権力の行使
にあたる。
 国際法では主権を国家の権力が行使できる地域と定義づけている。
 中国の東シナ海防空識別圏は尖閣諸島を範囲内に含んでおり、ここで権力を行使することによって尖閣諸島の実効支配を主張する根拠を作ろうとしているのではないか。
 日本政府は民間航空会社に中国へのフライトプラン提出をやめるよう要請したが、それはこうした中国の狙いをかんがみてのものかもしれない。


 戦略的には失敗していないかもしれない。
 ただ、
 「中国とは独善的で粗暴な国家である」
と世界各国に印象づけていないだろうか。
 いいかえるとソフトパワーがない、ハードパワーだけの国とみなされることになりはしないか。
 何事も力ずくでことを運ぼうとする国、つまり
 「惹きつける魅力のない国」
となりはしないだろうか。
 メデイアがかくも発達してしまうと、軍事力だけではどうにもならなくなる面がある。
 経済力が次にきて、いまは国家魅力(ソフトパワー)ということになっている。

 「世界が中国を見る目」
 それがどのような影響をもたらすのか、これにはまだ時間がかかるだろうが、冷静にみていいものにはならないのではないだろうか。
 中国の暴権力に対して、世界がどう向き合うのか、
 それを世界の論議の遡上に載せてしまった、というのが今回の事件が招来したものの一つだと思えるんおでらう。


レコードチャイナ 配信日時:2013年12月2日 13時6分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=79885&type=0

日米の反発を甘く見過ぎていた中国、防空識別圏の設定は大誤算―米紙


●29日、米ニューヨーク・タイムズ紙は、東シナ海に防空識別圏を設定した中国について、「日米や周辺諸国の激しい反発を想定してはいなかった」と指摘した。写真は中国のJ-10戦闘機。

 2013年11月29日、米ニューヨーク・タイムズ紙は、東シナ海に防空識別圏を設定した中国について、「日米や周辺諸国の激しい反発を想定してはいなかった」と指摘した。
 米華字メディア・多維新聞が伝えた。

 同紙によると、中国が防空識別圏を設定した背景には、自国の利益を守る目的の他に、硬直化している領土問題を一気に切迫した事態に持ち込むことで、尖閣諸島の領有権をめぐる交渉の場に日本を引きずり出す目的があった。
 しかし、防空識別圏に対する周辺諸国の猛反発は、中国政府にとって想定外であり、こうした状況を打開する明確な準備はしていなかったようだ。

 中国の防空識別圏設定に対し、米国はただちにこれを非難し、近隣諸国も強い警戒感を示した。
 また、中国国内でも熱狂的な民族主義的論調が巻き起こった。これらのすべてが中国政府の誤算だった。
 米国防総省は26日、中国が設けた防空識別圏でB52爆撃機2機が事前通告せずに2時間余りの訓練飛行を行ったと発表。
 米の民間航空会社も防空識別圏内での飛行を計画しているという。

 ヘーゲル米国防長官は、中国が防空識別圏を設定したわずか数時間後に、尖閣諸島が日本防衛義務を定めた日米安全保障条約の適用対象であることを重ねて主張。
 キャロライン・ケネディ駐日米国大使も、中国が防空識別圏を設定したことを「一方的な行動」と指摘し、「地域の緊張を高めるだけだ」と批判した。大使のこの発言は、米CNNを通じて全世界に報じられている。


 この中国防空識別圏の問題が一体何を目的としたもので、
その結果はなにを世界の趨勢にもたらすかはまだまだ先のことである。
 たくさんのメデイアがそれぞれに言い分を主張し、識者は種種雑多な推論を述べている。
 私も、私の理解する範囲のなかで、納得fきる形での想像を書いている。
 しかし、それらが適正であるかどうか、まだまだ先のことである。
 例えば尖閣反日デモは尖閣諸島を日本が中国に差し出すことを目的として行われたが、一年後の状況を見るに、日本の2/3世紀にわたって為されていた封印を解くという中国にとっては最悪の結果をもたらしてしまっている。
 そのため、中国は袋小路に追い詰められダンマリ戦術に入り、そしてこの識別圏という起死回生の一発を放つことになった。
 この防空識別圏は日本に対する大掛かりな脅迫であったはずだが、いま見るところでは
 アメリカを前面に引っ張りだすという、別の結果を生み出している。
 おそらくこれは中国が望んだことではないではないと思われるのだが。
 これからどう展開していくかはわからない。
 見守るしかない。
 シーソーは時に中国に、時に日本に揺れる、ということである。
 


ウォールストリートジャーナル     2013年 12月 03日 13:37 JST
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304125104579235081854822274.html?mod=WSJJP_hpp_MIDDLENexttoWhatsNewsThird

【寄稿】中国の防空識別圏、習主席はなぜ売り込まないのか
 By     RUSSELL LEIGH MOSES

 中国が先週、東シナ海の係争水域周辺上空をカバーする新たな防空識別圏を設定した。
 これは、東シナ海で力を振るおうとする強力な新中国指導部の打ち出した戦略のようにみえる。
 しかし、防空識別圏の最初の試練に対する北京の反応、ないし反応の欠如は、はるかに複雑な事情があることがうかがえる。

 中国が新防空識別圏を発表した直後の先月26日、米国は爆弾を積んでいないB52爆撃機を同識別圏内に飛行させた。それは意識的な挑発飛行だった。
 中国はひるんだ。
 中国空軍はB52の進入に反応せず、B52と接触ないし連絡しようともしなかった。

 その後、中国はその週の後半にかけて攻撃的になった。
 29日、米国と日本の軍用機を監視するため戦闘機を派遣したのだ。
 しかし主要な公式メディアがこれをほとんど報道しなかったことは、北京中央で防空識別圏の考え方に関する意見が対立していることをうかがわせる。

 それはまた、中国共産党の新指導部と軍部との間に緊張が存在していることを想起させる。

 中国の共産党と人民解放軍の機関紙など主流メディアは今なお、北京中央における政治サークルの支配的な考え方の最良の代表だ。
 中国指導部が新たな措置について自信を持ち、最近の動きに満足しているならば、この問題でこうしたメディアによる広範囲な報道の仕方があってしかるべきだ。
 同時に北京中央トップからこの問題に関する主要なステートメントが出されてもいいはずだ。
 しかし、そうした動きはほとんど皆無だ。

 ナショナリスト(国粋主義)的なメディアでは、お決まりの外国非難を展開している一方で、先月29日付の共産党機関紙・人民日報と軍機関紙・解放日報はいずれも米国の防空識別圏進入に関する国防省の記者会見を義務的にカバーしているが、それ以上の記事掲載はなかった。

 こうした際立った沈黙姿勢は、中国の戦略が揺らいでいること(あるときには強硬路線で鳴り物入りだが、その後後退して沈黙する)を示唆している。
 これは北京中央トップ階層から明確で一貫したガイダンス(指導)が欠如しているからだ。

 持続的な方向の欠如の一つの説明としては、中国の最高指導者である習近平国家主席が国内改革に気をとられていることがある。

 党メディアは習主席の最近の地方視察旅行を大々的に伝えてきた。
 それは防衛識別圏をめぐる先週の対峙(たいじ)のピーク時に山東省を視察したことも含まれている。
 その際、習主席は地元当局者に対し、党の最近の改革の青写真の「精神を実行する」必要性を強調した。

 東シナ海の争点について中国指導部内でのコンセンサス形成にもう一つ潜在的な障害となるのは、習氏が中国軍部との間で温かい関係を享受していないことだ。

 軍の一角から冷たい風が吹く有力な理由がある。
 習氏は過去1年間にわたって汚職撲滅運動を推進しているが、軍部も無傷ではなかった。
 最近、汚職捜査官は軍のロジスティクス(兵站)の監視強化の構えをみせた。

 習氏はまた、国民に道徳的な先導役であるよう軍に執拗に促している。
 自制と倹約に関してはとくにそうだ。

 習氏は、汚職取り締まりは必要とみる軍の下級層や一部の上級士官から支持を得たようにみえる。
 しかし、習氏の前任者である最高指導者たちからの大盤振る舞いを享受した軍の将軍たちにとってはそうではない。

 東シナ海での防空識別圏をめぐる対峙について、習氏には軍の司令部をあからさまに支持する機会があった。
 しかし少なくとも表向き習氏は何もしていない。
 29日に山東省済南の軍区本部を最近訪問した際、習氏は一般的な中国兵士を支持する必要を強調するにとどめ、軍上層部を称賛するのは控えた。

 防空識別圏の設定は、習氏の署名なしに行われたはずはない。
 だが、習氏がその売り込みにほとんど何もしていないという事実は、習氏や党の他の幹部が米国とその同盟国との対峙が本当に中国という国にとって必要なのか疑問視し始めている可能性を示唆している。
 とりわけ国内的に余りに仕事が多い現状ではなおさらだ。

 それが事実だとすれば、今後何日間かの疑問は、東シナ海をめぐって、あるいは軍本部内で本当の対決が起こる前に、習氏と支持者たちが軍内部の同志たちに冷静になるよううまく説得できるかどうかだ。

 (筆者のラッセル・リー・モーゼス氏は北京中国研究センター=Beijing Center for China Studies=の主任教授。現在、中国の政治システムにおける権力の役割の変遷に関する本を執筆している)




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