2013年12月31日火曜日

靖国参拝とは[2]:「オバマへの大いなる失望」、そして強硬姿勢を強める中韓への対応

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WEDGE Infinity」 2013年12月31日(Tue) 
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3481

安倍首相の靖国参拝:日本はどのように外交を立て直すか

 安倍晋三首相が、就任1周年に当たる12月26日に靖国神社を参拝した。
 これに対して、国内外からすでに厳しい批判がわき起こっている。
 今回の参拝は決して「電撃」ではなかった。
 秋以降首相周辺から年末参拝の情報は流れており、ある意味既定路線だった。
 それでも、環境さえ整えば参拝を見送る可能性はあったはずだ。
 では、なぜ参拝を見送る環境が整わなかったのか。
 まずこの命題に答えることが、これからの日本の外交を立て直すために不可欠だろう。

■強硬姿勢を強める中韓に「失望」し、参拝に踏み切ったか

 安倍首相は、靖国参拝は心の問題なので、外交問題になること自体がおかしいと繰り返し表明していた。
 第一期政権で靖国を参拝できなかったことを「痛恨の極み」とし、任期中の靖国参拝を「国民との約束」と考えていた。
 外交上の配慮から首相や閣僚が靖国神社に参拝できない現状の固定化を避けたいと考え、参拝するタイミングを見計らっていたのだ。

 それでも、安倍首相は再登板後も対外関係に配慮して参拝を見送り、終戦記念日や春と秋の例大祭の際に、真榊(まさかき)や玉串料を奉納するにとどめてきた。
 仮に中韓がこれを評価し、歩み寄りの姿勢を見せていれば、安倍首相も中韓との首脳会談を実現するため年末の靖国参拝を見送らざるを得なかっただろう。
 しかし、中国や韓国は安倍首相の自制を評価するどころか、歴史認識や領土問題をめぐって強硬姿勢を強めるだけだった。

 安倍首相としては、靖国参拝を自制し、対話を呼びかけても、中韓が反日的な立場を強めるだけだったことに失望し、今回の参拝に踏み切ったのだろう。
 つまり、中韓との関係は今が「底」であり、
 「靖国に参拝しても中韓との関係で失うものはない」
との判断につながったと考えられる。
 中国が東シナ海に防空識別圏を設定したことや、南スーダンで国連平和維持活動(PKO)に従事する韓国軍への弾薬の提供が評価されなかったことも中韓へのさらなる不信につながり、参拝を見送るという選択肢をより遠ざけたことだろう。

■安倍首相の信念を過小評価したオバマ政権

 日米が同盟管理に失敗したことも、参拝を見送る環境作りが整わなかった一因だ。
 アメリカ側は安倍首相の経済再生や同盟強化への取り組みは評価しつつも、その歴史観には懸念を持っていた。
 このため、アメリカ側は官民を挙げて、靖国参拝を自制するように強く求めていた。
 安倍首相が靖国を参拝すれば、日中・日韓関係がさらに悪化し、北東アジアの安全保障環境がより厳しいものになることを懸念してのことだ。

 参拝自制を求めるアメリカ側からのメッセージが、安倍首相に届いていなかったはずはない。
 10月にケリー国務長官とヘーゲル国防長官がそろって千鳥ヶ淵戦没者墓苑で献花をしたことも、12月初旬にバイデン副大統領が訪日したことも、安倍首相の靖国参拝を牽制する意図を含んでいたことは明らかだ。
 オバマ政権は春の大統領の訪日の可能性もほのめかして、安倍首相の外堀を埋めようともした。
 日本側にも、アメリカの「外圧」を利用して、安倍首相に靖国参拝を諦めさせようという考えが一部にあった。

 だが、オバマ政権は、靖国参拝を「国民との約束」とする安倍首相の信念を過小評価した。
 安倍首相は就任直後に米誌のインタビューで、靖国神社をアーリントン国立墓地になぞらえ、今後も参拝を続けると明言していた。
 にもかかわらず、たとえば国務長官と国防長官が千鳥ヶ淵を訪問したのは、真正面から安倍首相の面子をつぶすやり方だった。
 小泉純一郎首相が靖国神社に参拝しても、ブッシュ前大統領がこれを決して公然と批判しなかったのとは対照的だ。

 オバマ政権は、安倍首相が「国民との約束」を反故にしてまで参拝を見送れるよう、真摯に安倍首相を説得するべきだったのに、そうしなかった。
 安倍首相は、普天間飛行場の移設に進展をもたらした上で、アメリカにつぶされた面子を保つためにも「国民との約束」である靖国参拝を優先したのだろう。

 もちろん、国際的な批判を招いてまで、安倍首相が靖国参拝にこだわるべきだったのかという疑問も残る。
 靖国神社は、明治維新以降の国難に殉じた先人を祀っている。
 英霊に敬意を払うことはまさに心の問題である。だが、一宗教法人に首相が参拝することに関しては、憲法の政教分離の原則との整合性の問題を指摘する声がある。
 しかも、靖国参拝は不幸なことに外交問題化してしまった。
 参拝の目的が「不戦の誓い」であることを、国際社会に伝えることは困難だった。

■国民にとって靖国参拝は最優先課題ではないはず

 果たして靖国参拝は「国民との約束」だったのだろうか。
 世論が安倍政権を支持しているのは、何よりも経済再生に関わる政策である。
 今回の靖国参拝を国民が支持するかどうかは世論調査が出そろうのを待たなければならないが、国民にとって最優先課題ではないだろう。

 安倍首相は残りの任期中に靖国を参拝する必要はない。
 仮に今回の参拝を国民の過半数が支持するなら、すでに「国民との約束」を果たしたことになる。
 過半数が支持しないのなら、「国民との約束」ではなかったということだ。
 いずれにせよ、残りの任期はアベノミクス「第三の矢」である構造改革を通じて、経済再生に全力を注ぐべきである。
 靖国問題がここまで政治問題化した以上、新たな英霊の称え方についての議論も行っていくべきだろう。

 「中韓の顔色をうかがうのは国益にならない」と今回の参拝を支持する声もあるが、中韓の強硬姿勢を改めさせるには、自制的な対応を続けることによって国際世論を味方につけなければならない。
 国際世論は安倍首相のナショナリスト的な側面に懸念を持っているため、中韓は安倍首相を「右翼の軍国主義者」と批判して国際世論を誘導しようとしていた。
 だが、安倍政権が中韓の強硬姿勢に自制的に対処しているのをみて、国際世論は理不尽な要求を日本に突きつける中国や韓国に批判的な目を向け始めていた。

 今回の靖国参拝で国際世論は日本も中韓も「どっちもどっち」という印象を持ったことだろう。
 しかし、国際世論は依然として「アベノミクス」に強い期待を持っている。
 安倍首相は、構造改革を通じた日本経済の再生によって、国際世論の信頼を取り戻すべきだ。
 歴史認識については、終戦70周年となる2015年に未来志向の「安倍談話」を出して一区切りをつければいい。
 今回の靖国参拝と同時に発表した「不戦の誓い」がその土台となるだろう。

■中韓それぞれへの対応策

 では、中韓そしてアメリカとの関係はどのように立て直すべきか。

 まず、中国は尖閣諸島の領有権に関して、韓国は慰安婦問題に関して、日本が譲歩することを求めている。
 日本としては、中韓の理不尽な要求には毅然と対処しつつも、特定の問題が二国間関係全体を悪化させている状況を改善させなければならない。

 実は、参拝直前に中韓との関係では変化の兆しが見え始めていた。
 中国では習近平体制が国内基盤を固めつつあり、韓国では朴槿恵大統領の側近から韓国の孤立を懸念する声が水面下で漏れ聞こるようになっていたからだ。

 中国は現在権力闘争の過渡期にある。習近平指導部による周永康・前政治局常務委員を中心とする保守派の粛正が行われている。
 周永康氏の側近が1人また1人と逮捕され、周氏自身もすでに軟禁状態にあるというのが大方の見方だ。

 習近平体制が権力基盤を固めれば鄧小平時代に匹敵する強い指導部となり、国内の改革に乗り出す可能性が高い。
 そして、国内の改革を断行するためには、尖閣をめぐる対立を相対化し、日中関係を安定させることが必要となる。
 実際、靖国参拝後も習近平指導部は反日デモを認めていない。

 朴槿恵政権には、側近が日韓関係の改善を提言することができない雰囲気が依然漂っている。
 今回の靖国参拝で日韓関係の早期改善はさらに難しくなったことは否めない。

 韓国政府は日本との防衛交流の停止を検討しているようだが、このような動きに一喜一憂する必要はない。
 北朝鮮情勢が変化を見せる中、特に韓国軍は日韓協力の重要性を痛感しているし、現場レベルでの自衛隊と韓国軍の関係は実は緊密だ。
 政治レベルでの関係改善はより困難だが、日韓関係の悪化に懸念を持っている韓国の政治指導者は決して少なくない。

■経済再生と日米同盟の強化に取り組むべき

 オバマ政権は、今回の参拝に「失望」したという声明を出したが、同時に安倍首相の「不戦の誓い」も評価している。
 日米同盟を揺るがしてはならないことはオバマ政権も理解している。
 人民解放軍が日米同盟にくさびを打ち込もうと、尖閣諸島周辺でさらなる強硬姿勢を見せる可能性は高い。
 このため、安倍政権は、普天間移設の着実な実施と集団的自衛権の行使に向けた議論を加速させ、日米防衛ガイドラインの改定を予定通り進めて日米同盟の強化を進めるべきだ。

 今後の日本外交の立て直しに、安倍政権は国家安全保障会議(NSC)を存分に活用すべきだ。
 NSCを通じて、首相官邸とホワイトハウスのコミュニケーションを密にし、信頼関係を維持することに努めなければならない。
 また、権力闘争の過渡期にある中国や不穏な動きを見せる北朝鮮に関して、日米が情勢認識を共有する必要がある。
 日韓関係の改善に向けて、首相官邸と青瓦台とのコミュニケーションを確立することも重要だ。

 今回の安倍首相の靖国参拝に対しては、しばらくは厳しい批判が国内外から続くだろう。
 中韓が無条件の首脳会談に応じることも短期的には期待できない。
 しかし、今回の参拝を機に、安倍首相は歴史認識に関する持論を封印する環境が整ったと考えるべきだ。
 そして、経済再生と日米同盟の強化に取り組むことで、外交を立て直し、国際世論を再び味方につけ、中韓との関係改善に忍耐強く取り組んでもらいたい。

小谷哲男(こたに・てつお) 日本国際問題研究所研究員
1973年生まれ。同志社大学大学院法学研究科博士課程満期退学。ヴァンダービルト大学日米関係協力センター客員研究員、岡崎研究所特別研究員等を歴任。専門は日米同盟と海洋安全保障。法政大学非常勤講師及び平和・安全保障研究所・安全保障研究所研究委員を兼務。中公新書より海洋安全保障に関する処女作を出版準備中。



朝鮮日報 記事入力 : 2013/12/31 11:31
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2013/12/31/2013123101292.html

【コラム】安倍首相に厳しく警告した米国の本心

 今年会った米国の対日専門家たちとの対話記録を整理した資料を取り出して読んでみた。 
 安倍晋三首相について、専門家たちがどのような評価をしていたか、再確認したかったからだ。

 専門家たちはほぼ共通して、慰安婦問題などをめぐる安倍首相の言行を批判しながらも「安倍首相は非合理的な人物ではない」と話していた。
 最高点をつけた部分が「首相になった後も靖国神社を参拝していない」という点だった。
 歴史認識には問題があるが、少なくとも周辺国を意識して「マジノ線」を越えない自制力は示しているというわけだ。
 日本の高官層と随時接触しているマイケル・グリーン戦略国際問題研究所(CSIS)上級副所長も、こういう理由から最近まで「安倍首相は靖国神社に行かないだろう」という見通しを持っていた。

 こういう状況の中、クリスマスの夕方(米国時間基準)に飛び込んできた安倍首相の靖国参拝強行のニュースに接し、米国の感じた当惑がどれほどのものだったか、想像することができる。
 米国政府の声明に繰り返し登場する「失望(disappoint)」という表現は、同盟国に対して気軽には使いにくい。
 ワシントンの外交消息筋は
 「仮に、韓国政府の何らかの行為に対し、米国が『失望した』という声明を出したと考えてみよ。
 おそらく対米外交ラインは全て吹き飛ぶだろう」
と語った。
 公式発表されるレベルがこれほどだったということは、水面下で米国の当局者はもっときつい表現を使ったことだろう。

 安倍首相の「オウンゴール」で、韓米は久しぶりに声を合わせて日本を批判している。
 これまで韓国に「日本との関係改善」を要求してきた米国としても、韓国の立場をより理解できるきっかけになった。

 とはいえ、米国の懸念は「安倍首相の歴史認識」そのものよりも「周辺国との対立」の方に、はるかに集中している。
 この点で韓米間には根本的な認識の差があり、そのため今後の解決策をめぐっても意見の違いがあらわになる可能性が高い。

 こうした差は、ニューヨーク・タイムズが社説で
 「米国も日本を圧迫するが、最終的には韓中首脳が安倍首相と直接会って対話すべき。
 安倍首相の行為に『ライセンス』を与えたのは、逆説的に韓国と中国の圧迫だった
と分析した点にもうかがえる。
 韓中が日本の歴史認識を批判し続け、安倍首相との会談を拒否したことで、日本国内で韓中に対する反感が高まり、そのため安倍首相が韓中の反発を無視して参拝を強行できたというわけだ。
 米国外交当局の関係者がしばしばニューヨーク・タイムズの論説委員と会い、外交上の懸案について意見交換をしていることを考慮すると、この社説を「幾つかある主張の一つ」と軽く流すのは難しい。

 「北東アジア戦略の中心軸」たる日本を放棄できない米国は、安倍首相に痛烈な警告を行ったが、これにとどまらず別の「懲戒」をする手段はほとんどない。
 結局、韓日に向けて「好きなように対話で解決せよ」というメッセージを投げ掛けた可能性が高い。
 とはいえ、米国の後頭部も簡単にたたけることを立証した安倍首相との対話に乗り出すという危険な手段を、うかつには選べないだろう。
 あれやこれやで新年の韓国外交にまた一つ大きな宿題が残された。


 安倍さんは「オバマに失望」したのだろう。
 「こりゃダメだ!、こうなりゃ一人でやるしかない」
 「アジアを中国の毒牙から守れるのは日本だけだ、アメリカは当てにならない」。
 とでも判断したのだろう。
 まあ、それはそれでいい。
 韓国がもはや中国の手先になってしまったことがわかればそれで十分といったところだろう。






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