2013年12月29日日曜日

安倍首相が米国に突き付けるジレンマ:靖国参拝は日本の戦略的負担に

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●記者の質問に答える安倍首相(27日、宮城県石巻市で)


ウォールストリートジャーナル     2013年 12月 29日 11:11 JST 更新
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304299204579287152969391912.html?mod=WSJJP_hpp_MIDDLENexttoWhatsNewsSecond

安倍首相が米国に突き付けるジレンマ
By     GEORGE NISHIYAMA

 【東京】日本の安倍晋三首相はたった2日の間に米国から称賛と厳しい批判を浴びた。
 米国の政策立案者が東アジア地域で中国の影響力に対抗するために安倍氏の助けを必要とするなか、
 安倍氏の積極的な政治スタイルがいかに米国にジレンマをもたらしているかが浮き彫りになった。

 安倍氏は27日、米国政府が長く求めていた在沖縄米軍基地の移設計画を進める上で欠かせない地元の支持を取り付けた。
 この前日、安倍氏は議論の的となっている靖国神社に参拝、中国と韓国を激怒させ、米国からは非難を浴びた。

 安倍氏の側近や一部の専門家によると、沖縄の基地問題に関する発表の前日に安倍首相が靖国神社に参拝したのは決して偶然ではない。

 しかし、ワシントンの専門家によると、沖縄の米軍基地をめぐって日本と協議を続けていたからこそ、
 米国は公式声明を通じて安倍氏の靖国参拝は不意打ちだったことを明確にせざるを得なかったという。
 そうでなければ、韓国と中国の担当者は米国が安倍首相の参拝計画を知った上で承認していたという結論を下すかもしれないからだ。

 米国は日本政府に対し、地域の安全保障にこれまで以上に大きな役割を果たすよう求めていた。
 第二次世界大戦中、日本の軍国主義に苦しめられた記憶がいまだに残る近隣諸国を刺激しないために、安倍首相のナショナリスト的な考え方を曖昧なものにしておきたい、という米国の希望は首相の靖国参拝によって失われた。

 スタンフォード大学ショレンスタイン・アジア太平洋研究センターのダニエル・スナイダー氏は
 「安倍氏が現実主義者とされていたのは安倍氏が靖国に参拝しなかったからだ。
 今の安倍氏は以前の安倍氏ではないと言っても分かってもらうのは難しくなっただろう」
と述べた。

 米国は日本に対し、韓国と関係を修復するよう促していたが、首相の靖国参拝でこれまでの努力は損なわれ、取り返しがつかない状況になった可能性がある。
 領有権を声高に主張するための手段とみられる中国の防空識別圏設定の発表後、日韓の関係修復は喫緊の課題だった。

 安倍氏が米国を振り切って靖国参拝に踏み切ったかどうかを判断するのは難しい。
 安倍氏は第1次安倍内閣当時に靖国神社に参拝しなかったことに後悔の念を示していた。
 一部では、安倍氏の靖国参拝は、するかしないかよりもいつするかが注目されていた。

 側近によると、安倍氏は靖国参拝を決意したとき、中国と韓国が強い反応を示すことを予想していた。
 しかし、ホワイトハウスが国務省に働きかけて、参拝に関するコメントの発表を止めてくれるかもしれないとの期待があったという。

 結局、在日米大使館は
 「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している 」
との声明を発表した。

 バイデン副大統領の国家安全保障担当副補佐官を務めたジュリアン・スミス氏 は米国がこうした反応をした最大の理由について、
 「関与を続ける米国の能力を帳消しにするものはあってはならない」
ことを確認したかったからだと述べた。

 スミス氏によると、米国は「真摯な仲介者」とみられることで東アジア地域の各国に関与し緊張緩和を目指す一方、自国の利害が危険にさらされたときには意見をしっかり表明する考えだ。
 安倍氏の靖国参拝を批判した米大使館の声明からは、米国が「少し踏み込む」必要があると感じていることがうかがえるという。

 日韓間の緊張緩和の「機会が失われた」(専門家)ことで、米国が掲げる外交の軸足をアジアに移す政策の実効性が損なわれた可能性もある。

 アメリカン・エンタープライズ政策研究所のマイケル・オースリン日本部長は
 「米国の影響力と実効性が低下しているという全体的な印象を強める結果になった」
と指摘する。



ウォールストリートジャーナル     2013年 12月 28日 11:21 JST 更新
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304299204579285171987069590.html?mod=WSJJP_hpp_MIDDLENexttoWhatsNewsSecond

【社説】安倍首相の靖国参拝は日本の戦略的負担に

 安倍晋三首相は26日、物議を醸す行動に出た。就任1年の節目に、250万人の戦没者を祀る靖国神社を参拝したのだ。
 戦没者には、大日本帝国軍の暗黒時代を象徴する東条英機元首相ら14人のA級戦犯も含まれる。
 安倍首相の靖国参拝は、中国、韓国、米国という奇妙な連合による批判を招き、終戦から70年近く経ってなお、東アジアでは微妙な政治情勢が続いていることを浮き彫りにした。

 メディア各社が陸空から追跡する中、正装であるモーニングに身を包んだ安倍首相は、靖国神社の入り口で一礼した後、本殿に上がって参拝した。
 首相は参拝後に発表した談話で
 「靖国神社の参拝については、戦犯を崇拝するものだと批判する人がいる」
との認識を示したうえで、
 「二度と再び戦争の惨禍に人々が苦しむことの無い時代を創るとの決意を伝えるため」
に参拝したと説明した。
 また、その考えは「過去への痛切な反省の上に」立つものであり、「国内および諸外国の」戦没者に祈りを捧げたと述べた。

 安倍首相は「中国、韓国の人々の気持ちを傷つけるつもりは全くない」と強調したが、それは口で言うほど簡単なことではない。
 参拝後数時間のうちに中国外務省は日本の駐中国大使を呼び、
 「日本の指導者が戦争被害を受けた中国や他のアジア諸国の人々の感情を容赦なく踏みにじったことに強い怒り」
を感じると抗議した。
 また、韓国の報道官を務める劉震竜文化体育観光相も「嘆きと憤怒を禁じ得ない」と強く反発し、米国は
 「日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに失望している」
との声明を在日米大使館のウェブサイトに掲載した。

 現職の首相として2006年以来初めてとなる安倍首相の靖国参拝は、日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ。
 中国政府は、対外的には尖閣諸島の日本の領有権を積極的に脅かし、中国の軍事費に比べればわずかに過ぎない日本の防衛予算の増額に強く反発している。
 一方、対内的には一党体制の正当性を強化すべく、反日ナショナリズムをあおっている。
 中国では26日、共産主義国家建設を指導した毛沢東氏の生誕120周年が祝われたが、毛氏が追求した政策では何千万人という人々が死亡した。

 今後、中国の日系企業に対する暴動や製品の不買運動などに注意する必要があり、こうした反日運動は政府による暗黙の支援を受けている場合が多い。
 北京の日本大使館は中国の在留邦人に向け、「対日感情の悪化が懸念される」として行動や言葉使いに注意するよう喚起するメールを出した。

 一方、韓国は中国とは状況が異なる。
 日本同様に自由民主主義国である韓国は、無法な暴動よりも外交的に冷たい態度を取ることで日本への敵意を表す可能性が高い。
 しかし、自己主張を強める中国への対処、とりわけ中国の覇権を阻止できる可能性が最も高い裕福な米同盟国間の協力を損なうことになるため、そうした外交的不和がもたらす影響は極めて大きなものになる。

 これは、靖国参拝の重大な側面だ。
 日本政府の一部有力政治家が、個人的信仰、政治的迎合、またはその両方のために、化学兵器や性的奴隷など戦時の残虐行為の事実をごまかし続けるだけでも大きな問題だ。
 だが、真実に反する行為によって、志を同じくする国が平和で自由主義的な地域秩序を推進できなくなる時、それは日本にとって戦略的負担となる。

 日本政府は将来的に、靖国神社の黒い闇に染まっていない新たな非宗教的戦没者慰霊碑の建立を検討することが必至となるだろう。
 そうなった時、独裁主義的な中国の脅威について明確に認識している安倍氏はこの戦略的負担を念頭に置くかもしれない。


 もし、反日デモが中国で起こったなら、安倍さんは小躍りして喜ぶだろう。
 「してやったり!
 中国の政治的安定を崩すのは外部からの圧力ではない。
 内部からの力である。
 昨年の「尖閣反日デモ」がそれである。
 中国当局が日本への圧力をくわえるためにやった、言わば官製デモだが、一歩間違えば反政府運動にもなりかねない危うさがある。
 よって、今年は「反日デモ一周年記念」が行われるはずであったが、当局はそのすべてをつぶし、このいデモ事態を暴徒によるものだとその価値を否定した。
 つまり、当局は怖いのだ、民衆の蜂起が。
 そこに付け入っているのが安倍さんだ。
 いかに、反日を煽って民衆を爆発させるか、それを虎視眈々と狙っている。
 最終手段としては尖閣諸島に自衛隊を上陸させ駐屯地を作るという方法が残っている。
 これは、奥の手である。
 切り札でもある。
 これを出せば、中国国内は混乱する。
 その効果は計り知れないものがある。
 しかし、計り知れないということは、その火の粉をかぶらねばならない。
 その判断をこれから見極めていくことになるのであろう。

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