2013年12月17日火曜日

いらだつ中国(2):日本・ASEAN特別首脳会議、米中の場外乱闘は続く

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JB Press 2013.12.17(火)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/39460

日本・ASEAN特別首脳会議:陰の主役は米中?
長期消耗戦の始まり

 先週末、ASEAN(東南アジア諸国連合)各国指導者が東京に集まった。

 今回は日本・ASEAN関係40周年を記念する意味で「特別」首脳会議と呼ばれた。
 安倍晋三首相は、内政上の理由で欠席したタイ首相を除く9カ国の首脳と精力的に会合を重ね、対ASEAN外交で一定の成果を挙げたようだ。

 しかし、今回の対ASEAN外交は日本だけではない。
 東京に招かれなかった中国や米国もちゃっかり参画していた。
 そこで今回は、主として中国の目線で同首脳会議の安全保障面での意味を検証したい。

 いつもの通り、以下はあくまで現時点での公開情報に基づく筆者の独断と偏見に満ちた仮説である。

■共同声明概要

 本稿執筆時点(12月16日現在)で日・ASEAN特別首脳会議の共同声明全文はウェブ上に公開されていない。

 仕方がないので、ここでは関連報道に基づき中国関連部分の要旨のみご紹介させて頂く。
 もちろん、中国関連といっても「中国」なる文言は一部を除き使われていないので、念のため。

●海洋安全保障・協力
 海洋安全保障、海上の安全、航行の自由、国際法の原則に従った平和的手段による紛争解決の重要性を強調。
 日本は南シナ海における行動規範に関するASEANと中国の公式協議を歓迎。

●自由で安全な海洋航行・飛行
 空と海でのつながりに関する協力強化で合意。
 国際法の原則、国際民間航空機関(ICAO)の関連の基準、慣行に従って、上空飛行の自由、民間航空の安全確保での協力強化に合意。

●人道支援・災害救援
 災害管理に関する協力を促進する重要性と緊急性を再確認。
 ASEANは、防衛相を含む非公式会合を主催するとの日本の提案に留意。

●積極的平和主義
 安倍首相は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、地域と国際社会の平和と安定にこれまで以上に積極的に貢献していくための安全保障政策について詳しく説明。
 ASEAN諸国の首脳は、地域の平和、安定、発展に建設的に貢献していくとの日本の取り組みへの期待を表明。

■中国側の反発

 中国には実に不愉快な内容だ。
 航空部分は最近の中国による防空識別圏設置を意識したものだろう。

 また、人道・災害支援とはいえ、防衛大臣非公式会合に関する日本提案にASEAN側が「留意」したことも懸念材料だ。
 さらに、日本の安全保障政策に「期待」が表明されたことも見逃せない。

 12月14日、中国と領土問題で対立するフィリピンと日本は「巡視船供与」で正式に合意した。

 15日、日本はベトナムとの間でも同国海上警察に対する「巡視船供与」協議の開始を決め、中国の海洋進出を念頭に「安全保障での連携が重要」との認識で一致している。
 いずれも中国にとっては許し難いことだ。

 案の定、中国外交部報道官は14日深夜になって、
 「日本の指導者が国際会議を利用し、悪意を持って中国を中傷する言論を発表したことに強烈な不満を表明する」、
 「日本はこの問題で下心を持って中国に対してことを起こそうとしているが、日本の企みは失敗に終わるはずだ」
とする談話を発表したそうだ。

 さらに、新華社通信は15日、日本は
 「客人(ASEAN諸国首脳)の共同の友人を憚りなく誹謗し、客人を気まずい状況に追い込んだ」
 「無礼な主人だ」
と非難したらしい。

 招待もしていない中国に「無礼」と言われる筋合いはないが、
 これで中国が今次首脳会議の結果をいかに懸念しているかがよく分かるだろう。

■米国の側面支援

 さらに、あまり大きくは報じられていないが、今回米国は日本・ASEAN特別首脳会議直前に2つの興味深い動きを示している。
 第1は12月12日のバイデン副大統領の安倍首相に対する電話連絡であり、
 第2は翌13日の中国海軍の米艦船妨害事件に関する米海軍の発表だ。

①.いずれも偶然にしてはでき過ぎている。まずは、安倍・バイデン電話会談から。

 日本では米側がバイデン副大統領の訪中、訪韓の模様を伝えたと報じられたが、ホワイトハウスのホームページでは米国が日本側に「中国の防空識別圏を認めず、東シナ海での米軍の運用は変わらない
 (The Vice President reaffirmed that the United States does not recognize China’s recently announced Air Defense Identification Zone and that the announcement will in no way affect U.S. operations in the East China Sea.)」
旨を伝えたと記している。

 また、同ホームページでは、
 「危機の際の新たな二国間連絡メカニズムの構築を含む地域の緊張緩和の動きを改めて支持する
 (The Vice President also reiterated U.S. support for steps to reduce regional tensions, including new bilateral mechanisms for crisis communication.)」
とも述べている。

②.さらに興味深いのは13日に発表された米太平洋艦隊司令部の声明だ。

 報道によれば、米海軍のミサイル巡洋艦「カウペンス」が12月5日、南シナ海の公海上で活動中に中国の軍艦に一時異常接近されたが、米側が回避措置を取ったため最終的に衝突は免れたという。

 米軍当局者によれば、米中艦船のクルー間で連絡を取り合ったため衝突は回避されたそうだが、事態を重く見た米国は今回の事件につき中国政府に対し高いレベルで申し入れを行ったという。

 また、米側専門家によれば、今回の事件は従来の事件よりもはるかに深刻なものであったそうだ。
 そこまでは分かる。

 ここで筆者が注目するのは発表のタイミングだ。
 12月5日に起きた事件がなぜ13日に発表されるのか。

 筆者の知る限り、この種の事件は日常茶飯事であり、そのほとんどは発表していないはずだ。

 これら2つのエピソードは米国がASEAN諸国に対して送ったシグナルではないか、と筆者は考えている。

■米中の場外乱闘は続く

 米国だけではない。
 中国側だって、今回の首脳会談直前、関係国に対し様々な働きかけを行った可能性がある。

 表に出てきた典型例は、中国による東シナ海防空識別圏設定に関するベトナム外務省の声明内容の変更だ。
 報道によれば、その事実関係は次のようなものであったらしい。

 12月5日、ベトナム外務省は識別圏設定につき記者会見で、
 「東シナ海の情勢および関係各国の懸念を、深く心配しながら注視している」
と述べていた。ところが、その後公式サイト上では
 「深く心配しながら」を「深い関心を持ちながら」に変更し、12日には「関心」が公式の表現であることを確認したという。

 今回の首脳会議については対中姿勢で「温度差隠せず」とか、「そろわぬ歩調」といった報道も見られた。

 確かに、日本とASEAN間だけでなく、ASEAN諸国同士でも対中観に相違があることは公然の秘密だ。
 実際に、全体会合でも中国側に配慮する発言を行ったASEAN首脳がいたという。

 以上に鑑みれば、今回の共同声明採択は日本にとって概ね想定内の順当な、逆に中国にとってはあまり愉快でない結果に終わったと言えるだろう。
 だが、この程度でめげるような中国ではない。
 奇しくも王毅外交部長は中東訪問を始める直前の15日夜、米国のケリー国務長官にわざわざ電話している。

 これからも中国周辺の海域・空域をめぐる米中の駆け引きは長く続くだろう。
 今回の日・ASEAN特別首脳会議でのやりとりもその一部に過ぎない。

 いずれ中国は南シナ海にも防空識別圏を設置するに違いない。
 日本はこうした現実を冷徹に見据えながら、戦闘には至らない長期消耗戦・神経戦を覚悟すべきである。

宮家 邦彦 Kunihiko Miyake
1953年、神奈川県生まれ。東大法卒。在学中に中国語を学び、77年台湾師範大学語学留学。78年外務省入省。日米安全保障条約課長、中東アフリカ局参事官などを経て2005年退官。在北京大使館公使時代に広報文化を約3年半担当。現在、立命館大学客員教授、AOI外交政策研究所代表。キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。



レコードチャイナ 配信日時:2013年12月19日 19時31分
http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=80686&type=0

ASEANは「日中対立」の最大の受益者になる=その理由は?―中国紙


●17日、環球時報(電子版)は「東南アジア諸国連合(ASEAN)は日中対立の最大の受益者か」と題する記事を掲載した。写真は2012年、広西チワン族自治区南寧市で開催された第九回中国・ASEAN博覧会。

 2013年12月17日、環球時報(電子版)は
 「東南アジア諸国連合(ASEAN)は日中対立の最大の受益者か」
と題する記事を掲載した。
 以下はその概要。

 日中対立は周辺国にマイナスの影響を与える可能性がある。
 しかし、これまでの状況をみると、マイナスの影響だけではなく、周辺国、特にASEANは逆に最大の受益者になる可能性もある。

 ASEANの国々は小さいが、その実力と影響力は軽視できない。
 ASEAN諸国の方針は重要であり、日中対立の今後を左右する。このため日中は対立する際、ASEAN諸国の理解と支持を得なければならず、彼らとの関係を強化する必要がある。
 日中ともASEANには礼を尽くしているが、彼らにとってそれは喜ばしいことなのか。

 日本からも中国からも良くされ、その上でどちらを選ぶこともしなければ、日中両国は彼らに恨み言を言うことはあるまい。
 逆に日中対立がなければ、ASEAN諸国がこれだけ良くされることもないだろう。
 日本のような国家が中国を牽制し、地域情勢のバランスを取ることに成功すれば、ASEAN諸国にとっても利益になる。
 日本のように野心が強烈な国が中国に圧力をかけることは、ASEANにとって朗報なのだ。
 日中対立で得をするのは彼らだ。


 ASEANが受益者となって、発展してくれれば日本としては願ったりである。
 日本としては中国に変わる生産地、あるいは消費地を作らねばならなくなっている。
 そしてASEANが発展してくれることで、高さは低いが中国の覇権を食い止める壁を作ることができる。
 その壁を厚いものにしたいというのが日本の意図であろう。






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