2014年1月5日日曜日

<「中華の夢」の行方>【3】:「中華の夢」は果たして正夢になるのか、それとも幻か?

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●安倍首相の靖国神社参拝への中国側の猛反発もあり、日中間には依然として政治的な暗雲が垂れこめている。米中間は「同床異夢」ながらも「蜜月」状態にあるのと好対照。米国は安倍政権に対し日中に関係改善を強く要求し、今年は少し関係改善に動きそうな気配もある。


レコードチャイナ 配信日時:2014年1月5日 9時40分
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<「中華の夢」の行方(8)>
中国したたか外交、殺し文句は2つの「切り札」―「安倍靖国参拝」もフル活用


●中国の習近平国家主席は「中国の夢を実現しよう」「中華民族の偉大なる復興」という言葉を好んで使う。習氏をはじめ中国政府幹部が意識するのは現在の覇権国家・米国だ。

 中国の習近平国家主席は
 「中国の夢を実現しよう」
 「中華民族の偉大なる復興」
という言葉を好んで使う。
 そこには、秦の始皇帝時代から清朝初期までほとんどの期間、世界の覇権国家だったことを強調し、過去の栄光を取り戻そうと呼びかけることで共産党への支持につなげようとの思惑が見え隠れする。

 習氏をはじめ中国政府幹部が意識するのは現在の覇権国家・米国だ。
 2013年12月上旬、バイデン米副大統領が日本、中国、韓国を歴訪した。
 中国の東シナ海上空の防空識別圏設定の直後である。
 日本政府はあくまでも撤回を要求したが、米政府は中国の一方的な決定の仕方や運用面の安全性を問題視したにとどまった。
 日米が力を合わせて中国に識別圏を撤回させるという日本政府の思惑は肩すかしを食らった格好だ。
 ヘーゲル米国防長官は
 「中国識別圏の最大の懸念は一方的になされたことで、賢明なやり方ではない」
と懸念を表明しながらも、
 「識別圏の設定自体は新しくも珍しくもない」
と指摘。
 国際法に合致しているとの中国の主張を容認してしまった。

◆米国も「新しい大国関係」に力点

 米国がこのように煮え切らない姿勢をとった背景として、米中による「新しい大国関係」にオバマ政権が力点を置き始めたことが挙げられる。
 バイデン副大統領と習近平中国国家主席は12月4日の会談で、米中両国の「新しい形の大国関係」について協議。
 バイデン氏は
 「米中関係は21世紀で最も重要な2国間関係であり、この2国は信頼と積極的な意志に基づいて行動しなければならない」
と言明。
 これに対し習主席は、米中関係について
 「世界平和と安定、人類の発展と進歩に共同の責任を有している。
 対話と協力の進展が両国の唯一の選択であり、互いに衝突せず、対抗しない『ウィンウィン関係』を構築したい」
と応じた。
 
 これに先立つ11月20日、オバマ大統領の側近のライス大統領補佐官は講演で、対中外交について
 「新たな大国関係を機能させようとしている。
 利害が一致する問題では協力関係を深めていく」
と言明、習近平国家主席が6月のオバマ大統領との会談で提案した米中の二大大国で世界を仕切る「G2論」を容認する考えを示唆したと注目を集めていた。

 日本では米国の「アジア重視」表明や米軍の「太平洋回帰」を「対中包囲網の一環」と捉える向きが多いが、米国政府は「対中封じ込めは行わない」と明言。
 米国にとって最大の課題は米政府債務16.6兆ドル(約1600兆円)
 12年の経常赤字4865億ドル(約48兆円)の縮減であり、破綻を避けるためには、軍事費の削減と、拡大するアジア市場の取り込みが不可欠。
 「アジア重視」は「中国重視」と置き換えても過言ではないほどだ。

 安倍晋三首相は就任以来、沖縄県尖閣諸島をめぐる領土問題を念頭に、同じ制度や価値観を共有する国々と連携する「対中包囲外交」を展開、各メディアもその狙いを大々的に報道した。
 ところが、インド、豪州、ロシア、東南アジア諸国、さらには英、独、仏、伊など欧州各国も醒めているのが実情。
 経済的に拡大する中国との良好な関係の維持拡大を経済・外交政策の基本としているからだ。

 13年10月初めにインドネシアのバリで開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議の開幕直前、習近平・中国国家主席とプーチン・ロシア大統領が首脳会談を行い、両国は「2015年に反ファシスト戦勝70周年記念大会を盛大に行う」ことで合意した。
 日本のメディアはほとんど無視したが、この合意は日本にとって大きな脅威となる恐れがある。

 中ロ両国は戦勝国の立場をともに強調し、尖閣諸島と北方領土を「戦後処理」の結果、戦勝国(中露)に帰属することになったと主張。
 敗戦国・日本の「固有の領土である」との主張に対し「反ファシズム」「戦勝国」をキーワードに共闘していこうという、日本にとって「危険極まる合意」である。
 戦勝国の盟主・米国や英国、フランスなども引き入れようとの思惑もある。

◆APEC議長国の「役得」も

 日米中などアジア太平洋の約20カ国・地域が参加し、経済問題を話し合うアジア太平洋経済協力会議(APEC)の議長国を、今年中国が務めることも今後を占う大きなポイントになる。
 中国政府は議長国として14年5月から9月にかけて、中国各地で貿易担当相やエネルギー大臣、財務大臣などの会合を主催。
 秋には習近平国家主席が議長となり、北京市郊外で首脳会合を開く。
 中国はこれらの議論をリードすることで、自らの考えを浸透させようとするのは必至だ。
 経済面でほとんど中国と一体化している台湾の馬英九総統がAPEC総会出席のため北京に行き、習主席と歴史的な会談を行う可能性も強まっている

 昨年12月26日に安倍首相が靖国神社に参拝、中韓が非難したばかりか米国までが「失望した」と批判、欧州、東南アジア諸国なども問題視した。
 「日本の安倍右翼政権は第2次世界大戦の評価と戦後秩序を覆すことを狙っている」
との中国や韓国の外交攻勢に格好の口実を与える結果となったのは否めない。
 王毅中国外相が米韓外相に連携を呼びかけ、韓国も朴槿惠(パク・クネ)大統領みずから潘基文国連事務総長らと電話会談。
 逆に次々と「対日包囲網」が出来上がりつつあると言えそうだ。

 ◆米中が共同軍事演習

 米国主催の世界最大の海上軍事演習である環太平洋合同演習(リムパック)に中国軍が初めて招待され、次回の2014年演習で実現することになった。
 昨年7月には、中国軍とロシア軍計16万人が極東・日本海で大演習を実施、中露海軍の艦艇21隻が北海道の北、宗谷海峡を抜けた。米欧の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)のラスムセン事務総長も、
 「中国を脅威とは見なさず、中国と組織的、恒常的な対話の枠組みをつくることが重要。
 今後数年間で、対話の枠組みづくりの可能性を探りたい」
と明言した。

 2013年4月には、南アフリカでBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)首脳会議が開催され、将来ビジョンを話し合った。
 この4カ国は人口で世界の43%、GDPでも非常に大きなシェアを占めており、習主席はシン・インド首相やプーチン首相らと「緊密な関係」を再確認している。
 「経済」と「戦後秩序」を前面に、世界に散らばる華僑らも動員した「中国外交」のしたたかさは侮れない。

(Record China主筆・八牧浩行)



レコードチャイナ 配信日時:2014年1月6日 8時40分
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<「中華の夢」の行方(9)>
日中、新たな「政冷経熱時代」が到来―上海自由貿易特区に邦銀3行進出


●2012年9月の日本の尖閣諸島国有化を受けた悪夢のような反日デモから1年3カ月。中国各地を現地取材したが、反日ムードは全く感じられず、日本企業の対中ビジネスマインドが回復。日中経済間に融和ムードさえ醸成されていた。写真は上海の日系企業。

 2012年9月の日本の尖閣諸島国有化を受けた悪夢のような反日デモから1年3カ月。
 中国各地を現地取材したが、反日ムードは全く感じられなかった。
 それどころか意外にも、日本企業の対中ビジネスマインドが回復、日中経済間に融和ムードさえ醸成されていた。

◆ユニクロ、ダイソーなど日系店舗が大賑わい

 中国最大の商業都市上海市では伊勢丹、三越などのデパートやイオン、イトーヨーカ堂、ユニクロ、東急ハンズなどの店舗も活況を呈していた。
 昨年9月末オープンした世界最大のユニクロ店舗となる旗艦店は、家族連れや若者で連日大賑わい。
 午前10時の開店直前に訪れたところ、百人近い客が入り口に並んでいた。
 中国のユニクロ店舗数は226。
 14年8月期の1年間だけで80店もの大量出店を計画、中国ビジネスは飛躍期を迎えているという。

 百円ショップ・ダイソーの現地法人「大創百貨」上海店の5フロアもある大規模店舗は日用雑貨、文房具から化粧品、食品に至るまで多くの商店が所狭しと並び、地元客で大賑わいだった。
 王雅曇店長は
 「多くのお客さんが来てくれて売り上げは伸びている。
 日系企業ですが昨年秋の反日デモの影響は全くありません」
と語っていた。
 日本のアニメ、キャラクター、ゲームソフトは大人気で、上海の目抜き通りにあるおもちゃ店のショーウインドーに「ドラえもん」の大きな人形が陳列されていた。

 一般庶民が暮らす地区でも、野菜や肉、飲料、雑貨を売る店に交じって日系コンビニ店舗も目に付く。
 セブンイレブン、ファミリーマートはそれぞれ2000店前後の規模で中国に進出。
 現在500店舗のローソンは五年以内に1万店への拡大を計画している。
 商品も質量ともに日本や欧米先進国と変わらない。
 食堂・レストランは外食を楽しむ人々で賑わっている。
 牛丼の吉野家や回転すしレストランもよく見かけた。
 訪れるたびに、都会の一般市民の生活水準は明らかに向上していると感じる。

 日本のメーカーや商社の対中進出も回復しつつある。
 13年1~9月の日本の対中直接投資は6%増となり、日中関係緊迫化により激減するとの予想を覆した。
 政治的な対立下でも中国市場重視を変えない日本企業の姿勢が明確になった格好だ。
 減速したとはいえ主要国でなお断トツの7%台の経済成長が続く13億5千万人の消費市場は世界戦略に欠かせないとの見方は根強い。
 中国に進出している日本企業約2万社の8割以上が今後も中国消費市場を重視しているとの調査結果もある。

 中国事業の直近の売上高について進出企業の大半が「問題発生前の水準かそれ以上を確保している」とされる。
 13年度に中国関連の売上増を7割が見込み、増益予想も4割を上回る。
 設備投資を前年度から「増やす」とした企業は4割に上り、「減らす」とした企業は1割にとどまった。
 販売や生産・調達の拠点としての今後の展開について、「変更はない」が6割を占めた。
 販売増のため拠点の拡大を検討あるいは実行している企業も3割弱あった。
 リスクを乗り越えていく姿が浮かび上がる。

◆新日鉄住金、川重、伊藤忠…続々対中進出 

 日本の企業は対中進出を加速させている。新日鉄住金は中国で自動車向け高級鋼板の合弁工場の新設を計画。
 川崎重工業は二輪車で中国に13年8月に再進出、同社現地法人を通じて、富裕層向けの大型モデルを中心に発売した。
 ヤクルトは中国・江蘇省無錫市に中国で4カ所目となる工場を建設し15年6月までに稼働させる。
 西武ホールディングスは傘下のプリンスホテルが吉林省でスキー場とホテルの運営受託に乗り出す。
 14年12月にスキーリゾートを開業する予定だ。
 ホテル・レジャー事業の収益拡大を推進しており、中国進出はその目玉になるという。

 伊藤忠商事は中国の日用雑貨品卸大手2社を買収。
 これにより2013年度の日用雑貨品取扱高は21億元(約330億円)と12年度比で約7割増える見通しで、同分野では中国最大手に浮上する。
 伊藤忠はすでに成都、鄭州、瀋陽など中国の13拠点で日用雑貨卸を展開しているが、15年には年間取扱高を35億元(約560億円)に増やす計画だ。
 
 丸紅も49%を出資する合弁会社・上海百紅商業貿易(上海)が日用品などの取扱品目やブランドを順次増やすほか、販売エリアも都市部から地方に広げる。
 地方都市でも日用品需要は旺盛で、12年度の売上高は10年前の4倍に拡大した。
 三菱商事も、出資する大連佳菱物流(大連)が卸事業を展開中だ。
 丸紅も取扱品目や販路の拡充に動く。
 きめ細かな配送体制など豊富な物流ノウハウを持つ日本の商社の事業拡大は「中国流通業の効率化にもつながる」と中国政府も期待している。

 中国の自動車市場は世界の自動車販売台数の4分の1を占め、2013年に2150万台に達した。
 数年以内に3000万台を突破するとの予測もあり、自動車メーカーや関連メーカーにとって、何としても落とせない市場だ。
 世界の自動車メーカーは、この世界最大の市場で「2015年以降」と見られる本格的な「環境対応車」「電動自動車」時代をにらんで動き出している。

◆トヨタ、ソニーが中国重視戦略 

 トヨタ自動車は13年11月、中国江蘇省常熟にトヨタ自動車研究開発センター(中国)をに開設。
 3年11月に完成した。
 テストコースも備えた大規模施設でハイブリッド車向け電池製造会社も設立。
 インバーターなど中核部品の現地調達も進め、中国で値ごろ感のあるHVの開発を進める。 

 ソニーの平井一夫社長は13年11月、上海市内で記者会見し、中国など新興国市場での14年度の売り上げを11年度に比べて40%増大させる意欲的な計画を明らかにした。
 「中国は日米と並ぶ世界3大市場の一つ」と述べ、今後も中国での需要獲得に注力する考えを強調した。
 上海のソニー店舗は目抜き通りにあり多くの中国人客が詰めかけていた。
 スマートフォンなどデジタル機器をはじめ、音楽や映画、金融など各事業の総合力を生かし、さらなる浸透を図る。
 13年度の中国市場での売り上げが前年度比2ケタ増になるという。

◆日本企業の進出に期待

 中国が上海に自由貿易試験区(特区)を昨年9月末に設立、多くの日系銀行・企業が着目、期待が盛り上がっている。
 この試験区では税制や規制が緩和され、企業の創意工夫が可能となる。
 既に三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行、みずほコーポレート銀行は同試験区に拠点を開設。
 試験区内では人民元決済など金融関連の規制が一部緩和される見通しで、日系企業の進出も見込まれるため、顧客へのサービス体制を整える。
 今後、こうした試験区は深セン、天津、西安、重慶などでも計画されており、日本企業は大きな役割を担うことが期待されている。

 2010年以降、所得水準の上昇に伴い中国消費市場が急拡大し、高級品だった日本製品を買える購買層が急増。
 中国は「世界の工場」から「世界最大の消費市場」へと大きく変貌した。
 人口減少により日本国内市場が縮小する中、日本企業はしたたかに可能性を求めて対中ビジネスを加速している。
 「グローバル化が進む中で収益が期待できるところに進出せざるを得ない。
 中国の富裕層や中間層は既に3億人以上に達し、20年には6億人に達する。
 隣接する世界第2の経済大国は市場として魅力的だ」
とあるメーカー首脳は語る。
 日中の政治分野は首脳会談も開かれず冷え込んだままだが、経済分野は熱気を帯びている。
 日本政府関係者は
 「日中は経済や文化、観光面での交流は順調。日本の立場はかなり理解してもらえている」
と語る。
 中国側も日本との経済などの交流は進展させたい意向で、「新たな政冷経熱時代」が到来したと言えよう。

(Record China主筆・八牧浩行)



レコードチャイナ 配信日時:2014年1月7日 8時10分
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<「中華の夢」の行方(10)>
夢は幻に終わるか?―中国の日本への期待は切実

●「中華の夢」は果たして正夢になるのか、それとも幻で終わるのか?その帰趨は世界と日本の今後に大きく影響する。写真は日中交流イベント。

 「中華の夢」は果たして正夢になるのか、それとも幻で終わるのか?
 その帰趨は世界と日本の今後に大きく影響する。

 習近平氏の唱える「中国(中華)の夢」とは何か。
 まずその発言を検証する。
 2012年11月29日、第18党大会直後に新しいチャイナセブン(政治局常務委員)が国家博物館での展覧会「復興への道」を見学。
 総書記に就任したばかりの習近平氏は重要談話を発表、初めて公の場で次のように語った。

 「皆中国の夢を議論しているが、私は中華民族の偉大なる復興は、中華民族にとって近代以来最も偉大な夢と考える。
★.中国共産党成立100周年を迎える時(2021年)、全面的に小康社会(余裕のある社会)を建設するという目標を実現し、
★.新中国成立100周年を迎える時(2049年)、富強・民主・文明・和諧的な社会主義現代化国家を建設するという目標を実現することが、
 中華民族の偉大なる復興という夢につながる」。
 「中国の夢」を「中華民族の偉大なる復興」と定義付け、結党と建国100周年という政治的節目に目標を設定した。

◆習主席「アメリカンドリームと相通じる」 

 13年6月、米カリフォルニア州で開催されたオバマ大統領との首脳会談で、習氏は「中国の夢」を持ち出し、「アメリカンドリームとチャイニーズドリームは相通じている」と強調。
 習氏はこの会談で、米中の二大大国で世界を仕切る「G2論」を展開、「太平洋を挟んで中国と米国という二大国が共同で世界を統治していく」考えを示した。
 「中国の夢」を世界的に有名な「アメリカンドリーム」になぞらえて誇示、反論を封殺したのは巧妙と言うべきか。

 2010年1月に刊行された
 『中国夢―ポストアメリカ時代の大国的思考と戦略的位置づけ』(劉明福・元国防大学教授著)
が「中国の夢」の理論的な著作とされているのでエッセンスを紹介すると―。
★.「世界ナンバーワンの強国になることが21世紀における中国最大の目標」
★.「21世紀の中国は、仮に世界ナンバーワンの強国になれなければ、必然的に遅れた、淘汰される国家となってしまうだろう」
★.「米中が大戦を含めた軍事衝突に突き進む可能性は低い」
★.「両国間に共通の利益が広範に横たわっており、米国は中国を封じ込めようとするが、そこには限度があり、封じ込めが過ぎると自らをも封じ込めることになることを米国は知っている」。
 ここで謳われているのは、米国との「G2」論を経て、チャンスがあれば「G1」をも狙おうという底意である。

 GDP(国内総生産)総体での比較で言えば、本連載コラム第4回
 「中国経済は20年代に米国を超え、50年には日本の10倍に!?―課題も山積」
で詳述したように、経済規模拡大の「夢」は実現の可能性が高い。
 2020年代までに中国の国内総生産(GDP)は米国を抜き、世界1位に躍り出るというのが、OECD、IMFなど各種機関の中期経済予測。
 さらに英エコノミスト誌が編集した「2050年の世界」によると、50年に世界全体の中で占めるGDPシェアは中国が30%、米国は18%に縮小、日本はわずか3%にとどまる。

◆世界をリードする普遍的理念は?

 ただ、本連載コラム
(1).中国で相次ぐ襲撃事件、抗議運動も年間20万件―驚くべき「負の遺産」に喘ぐ、
(2).大都会の活況の陰で「歪」が噴出―格差・腐敗「危険ライン」に 、
(3).環境汚染で滅ぶ?―「PM2.5」「がん村」の恐怖、「近海から魚が消えた」
――で紹介したように、乗り越えなければならない壁が待ち構えている。
 習政権は多くの関係組織を総動員し、経済成長を多少抑えても所得格差是正、国有企業の民営化、汚職・腐敗の解消、情報統制の緩和など最優先政策課題に取り組む方針だが、富裕層、既得権益層の抵抗が強く、実現は至難の業。深刻化する大気汚染など社会的な歪は増大する一方で、国民の不満は高まっている。

 これらの課題をクリアできなければ、中間層が拡大せず、消費が伸び悩む一方、企業経営の効率化が阻害され、企業の採算性も悪化する。
 さらには企業の国際競争力が低下し、貿易赤字国に転落。
 その結果、経済成長率が低下してしまう最悪シナリオもありうる。

 中国側は日本の環境汚染、医療、介護などに関するノウハウや投資を切望。
 経済分野では本連載コラム(9)『日中、新たな「政冷経熱時代」が到来―上海自由貿易特区に邦銀3行進出』で取り上げたように、日本に熱い視線を投げかけている。

 ただ、秦の始皇帝時代から清朝初期までの覇権国家の地位を取り戻すにはなお高いハードルが待ち構えている。
①.世界をリードする普遍的な理念を確立できるか、
②.世界の各国から敬意を持たれるか、
③.人民元が基軸通貨として認められるか
―などの難題である。
 米国に代わる真の覇権国家への道のりは遠いと言わざるを得ない。

(Record China主筆・八牧浩行)



レコードチャイナ 配信日時:2014年1月8日 7時46分
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<「中国の夢」の行方(11・完)>
尖閣、日本の実効支配のまま「棚上げ」で日中動く―米国が調整

 安倍首相の靖国神社参拝への中国側の猛反発もあり、日中間には依然として政治的な暗雲が垂れこめている。
 米中間は「同床異夢」ながらも「蜜月」状態にあるのと好対照。
 米国は安倍政権に対し中韓との関係改善を強く要求し、今年は少し関係改善に動きそうな気配もある。

◆習近平主席、王毅外相が対日改善へ動く

①.一つは2004年から3年間駐日大使を務めた親日派・王毅外交部長(外相)の存在。
 対日外交攻勢の急先鋒でもある王毅氏だが、昨年6月、北京での世界平和フォーラムで講演し「領土主権と海洋権益を巡る争いは、解決させる前に問題を棚上げし、共同開発することが可能だ」と明言、日中間に刺さった棘である尖閣問題の棚上げ論を展開した。
 この直後に、中国の軍幹部も訪中した元自衛隊幹部との会談で「棚上げ」に言及、これが政府全体の方針であることがうかがえる。

 中国の周恩来首相(当時)は1972年の「日中共同声明」による国交正常化の交渉で「尖閣問題には触れない」とし、78年の「日中平和友好条約」の時点でトウ小平副首相は「一時棚上げにしてもかまわない」と東京・日本記者クラブでの質問に答えている。
 その結果として、日本は、巡視船を周辺海域を巡回させ実効支配を続けてきた。

 中国は1992年2月に「領海法」を制定し、尖閣諸島を中国の領土と規定している。
 この時以来領有権を主張している中国が再び「棚上げ」に戻ることは、周恩来、トウ小平両氏が黙認した状態に帰することを意味する。
 中国側が「棚上げ合意があった」と認めるのは「周恩来、トウ小平は日本の実効支配の継続を認めた」と言うのと同義語。
 中国が2010年9月7日の中国漁船と日本の巡視船との衝突以前の形に戻そうとするのなら、日本にとり有利な話といえよう。

②.もう一つは習近平主席の意向。
 13年10月24日に開催された「周辺外交工作座談会」で、中共中央政治局常務委員ら多数の幹部を前に、習氏は
 「対日関係は改善すべきだ。
 日中の経済交流と民間交流を強化せよ」
と発言した。
 権限基盤を掌握した習氏の言葉は重く、この情報は瞬く間に関係者に伝えられ国粋主義者の反発を招いた。
 「売国政府」と罵倒されないために、防空識別圏設定といった対日強硬策に出た
とも言われている。

 習氏は福建省庁、浙江省党委書記や上海市党委書記などを歴任、日本の企業幹部や姉妹県市首長らとの親交も深く、日本産業界の底力や技術力を熟知。
 中国経済の発展には日本との関係改善が不可欠と認識している
 。今年は議長国を中国が務める北京でのAPEC首脳会議など一連の国際会議が予定されており、メンツが立つきっかけがあれば、日中関係改善につながる可能性もある。

◆自民党、公約から「灯台設置」など削除

 もう一方の主役は米国である。
 尖閣諸島をめぐる日中間の対立が長引くことは地域の安全を阻害し米経済利益への脅威につながると憂慮、日中両国に「自制」と「尖閣聖域化」を強く求めている。
 13年2月の安倍晋三首相とオバマ大統領との日米首脳会談でも、尖閣諸島問題について「無人島の現状を維持する」よう大統領から強く求められ、安倍首相は「日本は常に冷静に対処する考えで、自制する」と確約した。

 オバマ大統領に近い米外交筋は「オバマ大統領が求める尖閣問題の対話による平和的解決を実現するためには過去40年余と同様、この海域を聖域化するしかない。
 1972年の日中国交正常化交渉時に田中首相と周恩来首相が了解し合い、1978年の日中平和友好条約締結時に園田外相とトウ小平副首相が合意した尖閣棚上げを今後も継続することで事態を沈静化させることだ」と指摘。
 その上で、
 「中国が領海侵犯などの行為を止める一方、日本も尖閣諸島への公務員常駐や舟だまり設置など断念し、無人島の尖閣諸島を元に戻すことが先決」
との米オバマ政権の意向を明かした。

実際、13年7月の参院選での自民党公約では、12年12月の総選挙公約で明記されていた「公務員常駐」「舟だまり」「灯台建設」などの項目が削除された。

 米外交筋は
 「尖閣諸島は日本固有の領土であり領土問題は存在しない。話し合う余地はない」
との主張を日本政府が繰り返すだけでは、国際社会で説得力を持たない」
と話す。
 安倍首相が「戦後レジュームからの脱却」を標榜。平和憲法改定、村山談話・河野談話見直しを志向し、「歴史認識」をめぐって中韓などアジア近隣国と摩擦を起こしていることも、米オバマ政権は問題視しているという。

 一方、米オバマ政権はもともと、日本が「尖閣諸島国有化」で東アジアの平和と安定を損ねたと認識、安倍首相の靖国神社参拝にも「失望」という異例の強い表現で批判。
 さらに米ヘーゲル国防長官が1月4日朝、小野寺五典防衛相との電話会談で、
 「日本が近隣諸国との関係改善に向けて行動し、地域の平和と安全のために協力を進めることが重要だ」
と迫った事実は重い。

◆王毅氏「悪いのは一人、日本国民は悪くない」

 王毅氏が駐日大使として赴任したのは小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝で日中関係が冷え込んだ2004年秋。
 その赴任直後に、王毅氏は筆者に
 「小泉首相一人が退陣すれば解決する。
 首相と違い日本国民は悪くない」
と流ちょうな日本語で力説、
 先行きを楽観視していた。
 その後小泉氏を継いで首相に就任した安倍氏が、靖国参拝を見送った上で、最初の訪問国として中国に赴き、戦略的互恵関係を締結。
 王毅氏の「楽観予測」の通りとなった。

 ただ王毅氏は「国の領土主権は断固守る」との姿勢を崩していない。
 もともと親日と見られているため、そう主張しないと中国国内で国粋ナショナリストから「軟弱外相」、さらには「売国奴」などの罵詈雑言を浴びかねないためだ。
 同じく日本のナショナリストに支えられた安倍政権も事情は同じで、双方とも大衆世論を気にせざるを得ず引くに引けない。

 13年3月に外相に就任した王毅氏は持ち前のバイタリティで世界各国を飛び回った。
 本連載コラム第8回『「中国したたか外交、殺し文句は2つの「切り札」―「安倍靖国参拝」もフル活用』で解説したように、安倍首相の靖国神社参拝を逆手に取った中国の外交攻勢は凄まじい。
 王毅氏は首相参拝後間髪入れず、ケリー米国務長官、ロシアのラブロフ外相、韓国の尹炳世(ユン・ビョンセ)外相ら各国外相に相次いで電話し、
 「安倍首相の参拝は歴史の秩序を損ない平和と安定を乱すものだ」
と批判した。
 04年秋に王毅氏が筆者に語った「小泉氏一人が悪い」との論法と同じで、「悪いのは安倍首相個人で日本国民は悪くない」との主張を展開し、打開に動いているとの情報もある。

 日中双方が尖閣諸島の領有権を主張しつつ、実際には日本側がこれまで通り実効支配を守り、問題化を避けるため、従来通り灯台、船だまりなどの建設は行わない、というのは妥当な落としどころ。
 その方向で両国は水面下で動いている。
 その上で、一刻も早く首脳会談を開き、緊急時対応ルールを早急に確立することが必要だ。
 紛争が絶えない東アジア地域に平和の時代が到来するよう祈りたい。

(Record China主筆・八牧浩行)







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