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「WEDGE Infinity」 2014年01月06日(Mon)
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3464?page=1
中国は「党を改革すれば党が潰れる」
「党を改革しなければ国が潰れる」
11月19日付仏ル・モンド紙に、フランスの中国研究家Marie Holzman女史と中国の亡命反体制派である魏京生氏が、三中全会を機会に連名で論説を寄せ、
中国は、鄧小平時代と変わらず、経済改革のみを求め、政治改革は一向に進まないので、国内の社会不安は止まないだろう、
と述べています。
すなわち、11月9日から12日、中国共産党中央委員会が開催されたが、習近平主席の「労働報告」の中には、矛盾する文章も含まれていた。
例えば、「資源の配分には、市場機能が不可欠である」と述べながら、「我々は、集団財産制度や国家主導経済に指導的役割を与えなければならない」と言っている。
結局は、「共産党の指導を維持すること」が必要だということだ。
三中全会の主な成果は、党中央に直結する「国家安全委員会」という新組織を設立したことである。
これは、1978年に鄧小平が敷いた政策を継承したにすぎない。
すなわち、経済改革をしながら、常により強硬な政治的圧力をかける政策である。
中国は既に、司法、国防、安全保障、警察、武装警察等の組織があるのに、何故、新組織を設立したのか。
それは、党の指導部に、いつ国民の不満が爆発しないかの不安があるからである。
それで、「安定維持」のためには、多額の資金をかける。
党指導部の中にも少数派ではあるが、真の政治改革を求める者はいる。
1989年の胡耀邦の死は、この40年間で最も重要な民主主義を求める運動となった。
その息子、胡徳平は、民主主義を求める象徴になっている。
彼の仲間達は、富の再分配を開始する必要性を強調しつつ、胡錦濤が好んだ「中国流民主主義」ではなく、真の民主主義の基盤を築くことを求める。
が、政治改革実施の段階は既に過ぎてしまっているのかもしれない。
中国人は、よく言う。
「党を改革すれば党が潰れるが、党を改革しなければ国が潰れる」
と。
しかし、中国では欧州のような民主革命は起こらず、富裕層が生まれ、
富裕層は既得権益を失うことを怖れ、貧困層は、その内に富裕層になることを望んでいる。
その間、2012年7月の「胡潤報告」によれば、
中国人の富裕層の60%以上が既に移住しているか、そのための手続きを終えている。
その内、85%以上の人が子女を外国の一流大学に留学させている。
社会の分極化は拡大するばかりである。
0から1の数字で社会の不平等を示すジニ係数では、全ての数字が0.4以上になると社会暴動が起きる前兆とされる。
2012年末以来、中国の値は既に0.5近くなっていると言われ、もしそれを信じるならば、
全国的社会暴動の日は遠くないだろう。
憶万長者や党幹部の恐怖は、ここから来るのである。
三中全会直前に終身刑の判決を受けた薄煕来は、反面教師の例である。
彼は、武力に訴えることをしなかったが、彼に続く者は、逮捕され罪人にされる前に、武力に訴えるかもしれない。
実際、幹部の財産の詳細情報が流れるようになり、非難の声も聞かれるようになった。
ブルームバーグ・ニュースは、6月、
習近平一族の資産は、5億ドル以上あると試算し、
ニューヨーク・タイムズ紙も10月に調査を行ない、
温家宝一族の資産は、「少なくとも27億ドル」あると報じた。
この二つのメディアの英語と中国語のサイトは、現在完全にブロックされている。
汚職や縁故びいきの実態も明らかになってきた。
上海の警察官の引き出しに何故200万ドルの現金があったのか。
彼は、台湾、日本、韓国その他アジア諸国のビジネスマンが占める静安区を管轄して味をしめたのだろう。
最近、天安門広場や山西省等で起きた爆発や攻撃は、大きな社会危機の前兆にすぎない。
1989年に天安門広場に集まった者が欲したのは「平和的、論理的、非暴力的に」デモをする権利だった。
その平和のスローガンは、無制限の暴力の論理に閉じ込められた独裁政権の前でも通用するのだろうか、と論じています。
* * *
魏京生は、中国の民主化活動家で、それ故1979年~1997年、刑務所にいましたが、現在は米国在住です。
Marie Holzmanは、フランスの現代中国の研究家で、中国の民主化・人権に係る「Solidarite Chine」の代表も務めています。
1978年の「北京の春」から、長年、中国の民主化や人権弾圧の動向を見てきた、中仏の2人が、中国の現状を憂いて書いたのが、上記論説です。
経済改革のみを進めて、政治改革の進まない中国は、30年前と変わらない、と嘆いています。
ただ、30年前と異なるのは、経済発展を背景に中国が推し進めてきた軍拡と、経済のグローバル化です。
国内で人権弾圧をしながら、海外では自由の恩恵を他国以上に受けているのが中国ではないでしょうか。
国際社会における一定の国際秩序を求める諸外国にとっては、非常に難しい相手です。
上記論説の内容は、既に知られていることが多いですが、これを時として繰り返して指摘することには意味があります。
そうしないと、中国側は実情を隠蔽し、外部世界では真実が見失われるからです。
この論説も言うとおり、抜本的改革はもう手遅れかもしれません。
支配階級の既得権がこれだけ積み重なっては、まさに「党を改革すれば党が潰れる」状況であり、
その意味では党主導の改革は不可能で、そうなると、「党を改革しなければ国が潰れる」ことになります。
それで、最近は、
「現体制は何時まで持つのでしょうか? 」
という質問が多くなってきました。
もちろんその答えは誰にも分かりませんが、改革は不可能であり何時かは崩壊する、
しかし10年、20年は持つのであろうと考えます。
★.その理由は、大企業は、その幹部が支配階級であるために、
政府が無制限に融資するので破綻するということはあり得ません。
そういう不効率な金融、投資が永く続けば、物価が上昇し庶民の暮らしは厳しくなりますが、
世界最強の治安能力がそれを抑えます。
また、経済的にも、まだ低賃金の労働力や政府の支援などによる若干の比較優位はあり、また、膨大な外貨の蓄積がゆとりとなっています。
自発的な変革は無理で、体制の変革は最終的には反政府運動や暴動によるとすれば、治安能力は決定的な力を持ちます。
北朝鮮の金正日の政権が、何百万人の餓死者を出しながら、無事に次世代まで継承し、本人が畳の上で死に得たのはその治安能力の故です。
今回の三中全会の最大の効果は、それは治安能力の強化であったとも言えます。
では、その間日本はどう付き合えば良いのでしょうか。
中国としても、体制の存続を脅かさない限りの、経済自由化や、投資の誘致は必要であり、その限られた範囲内で付き合って行けばよいのだろうと思います。
岡崎研究所
岡崎久彦 おかざき ひさひこ
岡崎 久彦(おかざき ひさひこ、1930年4月8日 - )は、日本の外交評論家・政治評論家。防衛法学会顧問。NPO法人「岡崎研究所」代表。元外交官[1]。
生年月日: 1930年4月8日 (83歳)
学歴: ケンブリッジ大学
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